2016 Fiscal Year Annual Research Report
栄養塩類動態において水田土壌が系として機能する空間スケールの抽出と緩衝能力の評価
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15H05631
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
濱 武英 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (30512008)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水田 / 窒素 / リン / 黒ボク土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
年度当初は地震の影響により研究活動が一時的に中断したが,現地調査を実施せず,室内実験に集中して遅れを取り戻した。 熊本の水田土壌(黒ボク土壌)に特有の3 cm/dを超える高い浸透速度(最大8 cm/d)を再現した通水式の水田土壌培養システムを設計した。水田土壌に硝酸性窒素のみを供給した場合,土壌中の炭素によって脱窒が生じたが,窒素除去率は10~20%と低いものであった。これは,昨年度実施した灰色低地土壌による培養試験(通水速度=約1 cm/d)で確認された50%以上の窒素除去率と比べて大幅な低下であった。硝酸性窒素と炭素を同時に黒ボク土壌に供給して培養した場合に約60%の窒素除去率が確認されたことから,黒ボク土壌は灰色低地土壌に比べて,土壌からの炭素供給能力が劣る可能性が示された。また,通水速度(浸透速度)および炭素供給の有無と窒素除去率の関係を調べた結果,通水速度の増加とともに窒素除去率が低下することを確認した。微生物菌相解析の結果,培養した水田土壌で最も多く見られた微生物はAnaeromyxobacter属細菌であり,次いでRaltonia属であった。通水速度が増加した場合,Anaeromyxobacter属の割合は大幅に減少し,Gaiella属が最も多くなった。これまでの知見を要約すると,浸透性が高い一方で,炭素供給能力の低い熊本の黒ボク水田土壌では,これまで他地域の水田で報告されたような窒素浄化効果は得られないことが示唆される。しかし,これは実際のフィールドで観測された結果に反する。こうした室内実験と現地調査の結果の違いは,おそらく硝酸性窒素の流下方向の違いによってもたらされたものであると推察された。 現在,これまでの成果をとりまとめて発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
4月に発生した熊本地震によって,実験室をはじめ大学の設備が大きく損壊した。研究環境の復旧や壊れた計器の交換等に時間がかかり,8月まで実質的に研究活動ができなかった。また,昨年度に水文観測機器を設置した水田地区が被災し,現地調査は全くできなかった。地震後に研究計画を見直し,一部の補足的な実験や現地調査を省略したが,全体的に予定よりも研究が遅れている。また,一部の実験設備については,いまだ完全に復旧しておらず,引き続き研究計画の見直しが必要である。 現地で観測された浸透速度での水田土壌の長期培養を行うシステムを確立することができた。通水速度の調整によって土壌の空間スケールの調整を行い,窒素(主に硝酸性窒素)を対象とした培養実験を複数回実施し,窒素動態における黒ボク水田土壌の役割を評価した。また,長期的な土壌培養によって形成される微生物菌相の空間的な分布について明らかにした。ただし,pHやDOなどの培養条件を変化させた培養実験はまだ十分に実施できていない。 もう一つの主要な栄養塩類であるリンについて,十分な回数の培養実験を実施することができなかった。これは地震により,現地調査ができず培養用の試料の採取が行えなかったことと培養装置の一部が使用できなくなったことが主な原因である。年度の後半に試料採取等の実験再開の目処がたち,予備的な培養試験を数回実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
地震によって利用できない設備があるため,一部の実験の省略や実験作業の外部委託など研究方法の見直しを行う。特に,当初予定していた灰色低地土壌については,土壌の基礎的な特性に関する計測にとどめ,培養実験の実施は取り止める。 窒素については,pHやDOなどの培養条件を変化させた培養実験を実施し,土壌の物質緩衝能力を評価する。昨年度にリンの動態把握に関する実験が十分に実施できなかったため,年度の初めに集中して培養実験を行う。また,窒素とリンの動態を左右する土壌の微生物菌相や粘土鉱物の種類の解析を九州沖縄農業研究センター,熊大教育学部の協力の下で実施する。解析作業の外部委託も適宜行う。 また,現地での計測を再開し,実験結果の検証用のデータを収集する。 さらに,最終年度は,実験結果を用いて栄養塩類動態のモデルの構築を行う予定であるので,年度初めにリチャーズ式および移流拡散方程式を基本とした土中の物質移動の計算モデル作成を作成し,実験結果を用いたモデルの精度検証を進める。 以上の知見を整理し,栄養塩類動態における水田土壌の機能と空間的なスケールの重要性について考察する。
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Research Products
(4 results)