2015 Fiscal Year Annual Research Report
新規ナイロウイルスを用いたC57BL/6マウス出血熱モデルの解析と治療薬の探索
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15H05655
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石井 秋宏 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 助教 (90421982)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 感染症 / ウイルス / 創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
野生動物とヒトとの接触の機会が多いアフリカ大陸では、齧歯類のマストミスを宿主とするアレナウイルス科ラッサウイルス、ダニを媒介昆虫として感染するブニヤウイルス科ナイロウイルス属クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)といった出血熱感染症の病原体が多数存在しているが、いずれの出血熱に対しても有効な治療法は存在していない。本研究者の発見した新規ナイロウイルスLeopards Hillウイルス(LPHV)は近交系マウスC57BL/6Jに出血熱様の症状を伴う致死的な感染症を発症させることから、ナイロウイルスによる出血熱の動物モデルとして有用であると考えられる。平成27年度に行った研究で、LPHVの霊長類動物における病原性をカニクイザルでの感染実験で確認し、また、マウスモデルで既存薬の核酸アナログであるリバビリンの抗ウイルス効果を確認した。さらに、創薬のシードとしてリバビリンとは異なる作用機構を持つと期待できる化合物群を探索し、in vitroでリバビリンよりも抗ウイルス効果の高い化合物を見いだした。出血熱はアフリカ地域等発展途上国での発生が多いneglected tropical diseaseであり、治療薬剤、ワクチン等の開発も遅れている。これらのウイルス研究は精力的に行われているが、多くの国で高度封じ込めBiosafety level-4 (BSL-4)での取り扱いが義務づけられ、限定された施設でのみ実施可能な状況であることや、ほとんどの出血熱関連ウイルスが、主要な実験動物であるマウス等の小動物への感染において症状を示さないため、生体における研究は困難である。本研究により、そのような出血熱を模倣し、解析をすることで病原体の性質の解明や治療法につながる発見ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、新規ナイロウイルスLeopards Hillウイルス(LPHV)の性状解析のため、カニクイザルでの感染実験を行った。本実験はコウモリ由来の新規ナイロウイルスがマウスに致死的な出血熱様感染症を引き起こしたことから、他動物、特に霊長類動物においての病原性を確認した。滋賀医科大学 病理学講座疾患制御病理学部門 伊藤靖准教授らとの共同研究により、マウスにおいて弱毒の11SB17株と強毒の11SB23株を各3頭のカニクイザルに接種し、病態の観察、体温変化、血球数や血中ウイルス量などを測定した。いずれのウイルス株についても接種後すぐに発熱、食欲減退等の症状を示したが、致死性は見られなかった。2株間での比較においては、11SB17株の方が発熱期間、ウイルス血症の程度等で11SB23株よりも重篤な症状を示したことから、マウスとサルでウイルス感受性の違いが示された。この差違を解析するため、リバースジェネティクスによる組換えLPHVを作成するため、発現プラスミドの構築を行った。 抗ウイルス薬候補となる化合物の探索では、まず、塩野義製薬との共同研究で提供された低分子化合物群についてスクリーニングを行い、in vitroで抗LPHV効果を持つ化合物を見いだした。本化合物群については引き続きスクリーニングを行うと共に、当初計画に従いアレナウイルス属ウイルスについても効果を検討する。さらに、マウス感染モデルを用いてリバビリン等抗ウイルス効果を持つ核酸アナログのin vivoでの抗LPHV効果を検討し、感染モデルとしての有用性を確認した。 以上の結果から、本研究課題の目的である動物感染モデルを利用したナイロウイルス属ウイルスの病原性の解析と、創薬に向けた探索については基礎的な実験系の確認及び実験の準備が進められ、概ね順調な進捗状況であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
LPHVの病原性解析については、分子生物学的手法によるアプローチをとるため、リバースジェネティクスによるウイルスの作出を試みる。リバースジェネティクスには、ウイルスゲノムRNA発現系とゲノム複製過程を始めるためのウイルスタンパク質発現系を必要とするが、既報のナイロウイルス属ウイルスのリバースジェネティクスはウイルスタンパク質の発現量が足りず、ウイルス遺伝子のコドン最適化等の改良が必要であることが判明した(personal communication)。本年度はこのことを念頭に置き、組換えウイルス発現の確認と、必要であれば改良を試みる。組換えウイルス発現に成功した際には、マウスモデルを用いて病原因子の探索を行う。その後、サル細胞株等を用いたin vitroの実験を行い、宿主特異性に関わる因子を探索する。 LPHVをはじめとした抗ウイルス活性を持つ低分子化合物の探索は引き続き行う。現在見いだされている化合物群の構造-活性相関を検討し、類似する化合物群の中からより活性の強い化合物を探索する。また、化合物の抗ウイルス活性について、in vitroではウイルスタンパク質の変異解析等の手法で作用点を決定し、作用機構の解析を行う。in vivoでは抗ウイルス活性をマウスで測定するため、リバビリンを陽性コントロールとして投薬方法と病態、生存率等の関係を明らかとして、感染-投薬モデルとしての基盤を確立する。
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Research Products
(3 results)