2016 Fiscal Year Annual Research Report
多様な個人を前提とする政策評価型国民移転勘定の創成による少子高齢化対策の評価
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15H05692
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市村 英彦 東京大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50401196)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
臼井 恵美子 一橋大学, 経済研究所, 准教授 (50467263)
奥村 綱雄 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (90323922)
川口 大司 東京大学, 大学院経済学研究科, 教授 (80346139)
澤田 康幸 東京大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40322078)
清水谷 諭 公益財団法人世界平和研究所, 研究部, 研究員 (20377039)
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | 少子高齢化 / 政策評価 / ノンパラメトリックス / セミパラメトリックス / 国民移転勘定 / 構造推定 / rogression discontinuity analysis |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度には次のことを進めた : パネルデータ作成と共に研究を推進するにあたって研究班を組織し、それぞれ内外の関連する第一線の研究者と連携して研究に取組んだ。 (パネルデータ関連) JSTAR : RIETI及び関連科研研究と連携し、第4回調査のデータ成形および第5回の実査を終えた。JSTARは10都市でサンプリングされている。その為、国勢調査を用いて、従来より的確に日本全体を代表すると見做す為のウェイトを作成している。JSTARはランド研究所が主催するThe Gateway to Global Aging Data(https : //g2aging. org/)の一つとして世界的に認知されており、これまでに世銀、IMF、NBERといった研究組織を含む研究者たち120人以上が利用している。また、日本経済学会のJapanese Economic Review誌がJSTARを用いた実証分析の論文に関する特別号を組み、市村・澤田・清水谷(2016)が編集した。 NSWF : 従来のNSWFに加えて、(1) 少子化の原因を探るための質問を拡充し、(2) 育児・介護といった時間移転に関する質問を拡充し、さらに (3) どのような政策が有効であるかについての仮想質問を加えた。プリテストを終え、質問票のさらなる調整を行った。 (研究関連) NTAの問題点を克服することを通じて少子高齢化政策を分析する標準的な枠組みを作ることを目標にして、NTAを時間の移転を含むよう拡張し、さらに世代ごとのライフサイクルとして捉え直し、またNTAを構造モデルとリンクした上で世代重複モデルに埋め込むことを目指し、NTA関連、家計のライフサイクル・モデルの構築関連、医療・介護需要の推定、ライフサイクル・モデルの世代重複モデルへの接合、年齢別労働需要関連、年齢別物価指数関連、家計行動のミクロ実証分析関連、と各側面毎に研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究プロジェクトでは英国Cemmap研究所と共同で国際会議を過去2年間に一度開催し、海外から11名の世界トップクラスの研究者を招聘し基調報告・討論を重ね、本研究プロジェクトの研究内容を一層充実させると共に研究課題を不断に見直している。またNBERで高齢化研究を続けてきたHarvardのDavid Wise教授より招待され市村は2年間に2度国際会議へ出席した。その他市村は2年間に2度北京大学、1度南カリフォルニア大学での高齢化問題に関する国際会議に招待されている。小川はマラヤ大学におけるSocial Security Research Centerのチェアを勤めており、その関係で市村も同研究所でパネルデータ作成、高齢化問題を考える枠組みについてアドバイスすることになっている。さらに清水谷、小塩は長年NBERの高齢化問題会議で定期的に発表を続けている。また国内ではJSTAR実施各都市での結果説明会の他、小川は兵庫県の研究調査中間報告書「人口減少・少子・高齢化社会におけるライフスタイルと社会保障のあり方 : 地域におけるクオリティ・オブ・ライフの実現に向けて」作成に関わり、市村はその準備段階におけるセミナーで「くらしと健康の調査」及び「仕事と家族に関する全国調査」などのミクロデータを用いた政策立案、制度設計及び政策評価の可能性について解説するなど、研究だけに留まらない活動を行っている。 本研究プロジェクトは過去2年聞に分担者のみで13の査読付き国際学術誌向けの論文を刊行し19の国際招待講演を行ってきた。上記の数字は本研究プロジェクトの研究活動がいかに精力的に進められ、それが国際的に認知されているかの証左であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の特色は、NTAの計測に、労働と所得の私的・公的移転を含む構造モデルとしてのライフ・サイクルモデルと企業の構造モデルを導入し、世代重複モデルを用いるという新たな発想に基づくNTA分析手法を開発することである。このことにより、これまで捉え切れていなかった世代間、世代内における多様な私的・公的移転に関する現実の新たな側面を明らかにする枠組みを構築するだけでなく、政策分析のツールとしてのNTAという新しい地平を切り開く。 即ち、本研究は、これまで消費や労働所得などの内生変数の年齢別平均額といういわば誘導型のみ分析してきたNTAの枠組みに、これまで欠けていた家計と企業の構造モデルを導入し、それにより個人と企業の多様性を捉える枠組みを確保すると共に、それらの構造モデルを政策変更が個人や企業の行動に与える影響を捉える枠組み(即ち、ルーカス批判に答える枠組み)としても活用する。そしてそれらの構造モデルを一般均衡モデルとしての世代重複モデルと接合してNTA分析を行うことにより、社会全体における多様な所得と時間などの移転の様相を捉え、また、それらに対する少子高齢化対策の影響を評価しようとするものである。 平成27年、本研究のNTAを飛躍的に改善するという目的達成のためには、NTAの最新の議論を組み込むことが不可欠と判断し、「くらしと健康の調査」で使用する既存のコンピュータ面接システム(CAPI)の構成の全面的な改良が必要となり、調査の開始が遅れ6カ月間の延長期間が必要となった。また、NSWFについて、平成28年11月に、事前調査の結果を検討したところ、予定していた調査票の構成及び調査方法では、本体調査で高水準の回収率を実現し、かつ国際的な水準の研究に向け必要な情報を収集することが困難であることが判明したため、新たな調査票構成・調査方法を検討し、4ヶ月の遅延が生じた。そのため、平成29年度に調査を実施することになった。 現在、社人研(国立社会保障・人口問題研究所)の福田節也氏がNTA研究に参加しているが、それは社人研がNTAを準公式統計として5年毎に公表する可能性を考慮しているからであり、今年度は科研に応募してその準備を進める計画がある。一方研究分担者の澤田康幸氏は、アジア開発銀行のチーフ・エコノミストに就任したが、アジアの高齢化問題はアジア開銀においても重要な研究テーマであり、JSTAR・NSWFへの協力の可能性が高い。この流れの中で、JSTARのリフレッシュ・サンプルを層化ランダム・サンプルすることが望ましいと思われる。その為には三者が十分に連携して研究できるよう、本年度に予定されていたデータ収集を来年度に実施したいと考える。
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Research Products
(59 results)