2018 Fiscal Year Annual Research Report
太陽系始原物質の3次元構造から探る宇宙・太陽系における固体物質の生成・進化モデル
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15H05695
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土山 明 京都大学, 理学研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | 太陽系始原物質 / 凝縮 / 彗星塵 / 炭素質コンドライト / ナノX線CT / FIB-TEM / 水質変成 / 宇宙風化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)の研究 高周波誘導熱プラズマ(ITP)装置を用いた凝縮実験において、硫黄を含むFe-Mg-Si-0-S系の実験を進めるとともに、天然に近いニッケルなどを含むFe-Mg-Si-Ni-Al-Ca-O-S系に拡張した。これにより、彗星塵中のGEMSと呼ばれる非晶質珪酸塩微粒子や始原的炭素質コンドライト中の非晶質珪酸塩(GEMS様物質)が酸化還元条件の違いにより生成されることを明らかにした。また、Al-Mg-Si-O系の凝縮実験を行い、晩期型星周での粒子生成が天文観測との比較により議論できるようになった。 2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)の研究 低エネルギーイオン照射装置を用いて、太陽風に相当する1 keV H+ビームの輝石への照射実験を進め、イトカワ粒子の宇宙風化層生成モデルの精密化をおこなった。摩耗実験を新たに玄武岩粒子について低速度~高速度の広い条件でおこない、摩耗速度によるプロセスの違いを明らかにした。これにより、イトカワ母天体での摩耗について、新たなモデル構築が必要であることがわかった。 始原的炭素質コンドライト隕石中の非晶質珪酸塩(GEMS様物質)の水質変成作用を明らかにするために、ITP装置により作成した非晶質Mg珪酸塩微粒子を用いてその場水質変成実験をおこなった。これにより、水質変成作用の初期プロセス(非晶質珪酸塩の水和→Mgの選択的溶解→Mg silicate hydrate(M-S-H)の析出→層状含水珪酸塩鉱物への変化)が初めて明らかとなった。 3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造の研究 始原的炭素質コンドライトに見出した非晶質珪酸塩を含む超多孔質岩相(彗星塵に類似した「氷の化石」)をもとに、新しい微惑星形成モデル(雪線を超えて移動しながら微惑星が成長)を提案した。吸収-位相ナノCT、TEM観察、nanoSIMS分析などを進め、cosmic symplectie(COS)と呼ばれる太陽系で最も重い酸素同位体を持つ物質中に水質変成の証拠を見い出すとともに、始原的炭素質コンドライト中に彗星塵に特徴的なエンスタタイトウィスカーが普遍的に存在することを示し、水質変成を受けた炭素質コンドライト中にCO_2に富む流体包有物を世界で初めて発見した。 4. 太陽系始原物質進化のモデル化 上述した太陽系始原物質の分析、凝縮実験・水質変成実験結果より、彗星塵や始原的炭素質コンドライト中のGEMSおよびGEMS様物質は、太陽系の異なる領域で凝縮し様々な程度の変成を受けているというモデルを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)の研究 本研究で導入したITP装置による凝縮実験とその生成物の分析(XRD, IR, SEM, TEM)手法を確立し、硫黄を含む系に次いでニッケルを含む天然物(GEMS)組成での凝縮実験が世界で初めて可能となった。彗星塵や始原的隕石などの地球外物質試料との比較により、GEMSが太陽系における凝縮物であることを示すとともに、これらの太陽系始原物質の形成プロセスについてより詳細な議論が可能となった。また、先分析太陽系での星周塵粒子生成実験も行えるようになった。 2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)の研究 安部(JAXA, 連携研究者)と共同開発した低エネルギー照射装置を用いて、現実の太陽風(1keV H^+)照射を模擬した実験が可能となった。これによりイトカワ粒子の宇宙風化層が世界で初めて再現され、その生成プロセスの定量的な議論ができた。また、低速度の摩耗実験から、イトカワのような小天体表面での粒子摩耗プロセスの見直しが必要であることがわかった。さらに、その場水質変成実験から、始原的隕石の水質変成の初期プロセスが明らかとなった。 3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造の研究 本研究により開発した放射光を用いた吸収-位相ナノCT(化学組成と密度情報をもつ3次元構造が100 nmの分解能で取得できる)により、太陽系始原物質への応用が順調に進んでいる。本手法により見出した超多孔質岩相より、新しい微惑星形成モデルを提案できた。また3次元構造分析とFIB, TEM, nanoSIMSなどの分析を効率よく組み合わせることにより、超多孔質岩相だけでなく、プレソーラー粒子、多孔質始原的岩相、水質変成物(太陽系始原流体を含む)など、いくつかの重要な発見を行うことができた。 4. 全体のまとめ 凝縮実験や水質変成実の結果と太陽系始原物質の3次元構造分析の結果が有機的に繋がるようになり、太陽系初期の固体物質形成と進化の道筋が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)の研究 ITPを用いたGEMS組成の凝縮実験を系統的に行い、彗星塵中のGEMSや始原的隕石中のGEMS様物質の生成プロセスモデルの精密化を行う。Alに富む星周塵だけでなくSiに富む星周塵やFeを含む系の生成実験を行い、天文観測との比較から、星周塵粒子生成の包括的な理解を目指す。 2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)の研究 はやぶさ2のターゲット天体であるリュウグウのサンプルを想定したイオン(1 keV H+)照射実験を行い、リュウグウでの宇宙風化を予言する。1 keV H^+だけでなく4 keV He^+との同時照射実験をおこない、大気のない天体での太陽風照射による宇宙風化プロセスの総合的な理解を得る。摩耗実験を進めて、イトカワやリュウグウの様な重力の小さな天体での摩耗と宇宙風化プロセスの最終理解を目指す。さらに、ITPによる凝縮実験で作成したGEMSやGEMS様非晶質珪酸塩を用いて、粒子線照射実験や水質変成実験をおこない、太陽系始原物質の変成作用の理解を進める。 3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造の研究 始原的隕石からの超多孔質岩相をはじめとする始原的岩相、エンスタタイトウィスカー、COS中の水質変成物質、流体包有物(46億年前の水)の探査とその詳細分析をさらに進め、彗星塵サンプルとの比較や炭素質コンドライト化学グループの違いも考慮して、これらの多様性に明らかにする。また粒子線照射実験をもとにして、太陽系始原物質に粒子線照射の痕跡を探索する。 4. 全体のまとめ 以上述べた研究を統合して、太陽系始原物質の形成シナリオの検証を行い、太陽系固体原材料物質の物質科学的解明を目指す。
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Research Products
(36 results)
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[Journal Article] Thermal and impact histories of 25143 Itokawa recorded in Hayabusa particles.2018
Author(s)
K. Terada, Y. Sano, N. Takahata, A. Ishida, A. Tsuchiyama, T. Nakamura, T. Noguchi, Y. Karouji, M. Uesugi, T. Yada, M. Nakabayashi, K. Fukuda, and H. Nagahara
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 8
Pages: 11, 806
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] AN ULTRA POROUS LITHOLOGY IN THE PRIMITIVE CARBONACEOUS CHONDRITE ACFER 094 : INVESTIGATION FOR PRISTINE PLANETRY MATERIALS.2018
Author(s)
M. Matsumoto, A. Tsuchiyama, J. Matsuno, A. Nakato, A. Miyake, M. Ito, N. Tomioka, Y. Kodama, K. Uesugi, A. Takeuchi, T. Nakano, E. Vaccaro
Organizer
81st Annual Meeting of The Meteoritical Society 2018
Int'l Joint Research
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[Presentation] 国際宇宙ステーション搭載シリカエアロゲルで捕獲された微粒子の高速衝突トラックの3次元形状2018
Author(s)
西 瑞穂, 土山 明, 矢野 創, 薮田 ひかる, 奥平 恭子, 松野 淳也, 上椙 真之, 上杉 健太郎, 中野 司, 野口 高明, 三田 肇, 山岸 明彦
Organizer
2018年日本惑星科学会秋季講演会
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