2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05696
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山内 薫 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | 超高速化学 / 反応動力学 / 強光子場科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 平成28年度に導入した100 kHz動作する先端レーザーシステムについて、CEP安定化のための差周波発生の波長を長波長に変更(叫(1480 nm)=・(515 nm)-ω_2(790nm)→(ω_3 (2400 nm)=ω_1(1030 nm)-ω_2(1800 nm)した結果、CEPの安定性が向上した。OPCPA出力のCEPの安定性をf-2f干渉計を用いてシングルショット測定したところ、CEPの安定性は220 mrad (RMS, 20min.)となった。また、先端レーザーシステムから出力される近赤外パルスを、キセノンガス媒質に集光することにより、波長35-60 nmの領域に高次高調波パルストレインを100 kHz繰返しで発生させることに成功した。 2. 既存レーザーの数サイクルパルス出力を用いたポンププローブ計測によって、N_2^+のB-X状態間の反転分布に伴うLasing過程の研究を行った。N_2^+から放出された波長391 nmのLasingの強度は、遅延時間に対して2-3 fsの周期で振動することが分かった。この振動は、N_2^+のA-X状態間の量子ビートに相当することから、B-X状態間の反転分布が、A-X遷移によって促進されていることが実験的に示された。 数サイクルパルスを用いたコインシデンス運動量画像(CMI)のポンプ・プローブ計測を行い、アレン分子の2体クーロン爆発過程の収量が、アレン分子、アレン分子イオンの分子振動モードの周期と同じ周期で振動していることが明らかになった。 OPCPAの出力を用いてメタノール分子のクーロン爆発過程のCMI計測を行い、CMI計測が100 kHzの高繰り返しで行えることを確認した。 理化学研究所との共同研究として、投影型運動量画像計測装置を用いて、極端紫外域のアト秒パルス列による酸素分子のポンププローブ計測を行った。0^+イオン収量の遅延時間依存性をフーリエ変換したところ、酸素分子の解離性イオン化過程においては、0_2^+イオンの2つの電子状態^2Σ_g^+と3^2Π_uが重ね合わさった結果、1 fsで振動する電子・核波束が生成することが示された。さらに、アセチレン分子についてもCH^+イオン、C^+イオン、H^+イオンを検出し、同様のポンププロープ計測を行った結果、アセチレンイオンのX ^2Π_u状態がポンプパルス列によ
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る光イオン化によって生成した後、プローブパルス列の7次高調波(10eV)によって3 ^2Π_g状態に電子励起しc-c結合の解離が誘起されることが示された。 既存のレーザー光源から発生させた数サイクルパルスを希ガス媒質に集光し、極端紫外領域の高次高調波を発生させ、この極端紫外光と近赤外パルスを用いたポンププローブ実験によって、電子高励起状態に生成した窒素分子イオンの解離過程の実時間計測を行った。その結果、C状態に生成した窒素分子イオンが数十フェムト秒の間に解離する過程を、そして、シェイクアップ過程により生じた窒素分子イオンが近赤外光照射により二重イオン化したのちクーロン爆発する過程を実時間計測した。 3. 「THz波によるレーザーアシステッド電子散乱過程」を用いた分子イメージング法で用いるTHz波の波形を計測するため、電気光学サンプリング光学系を構築した。生成したTHz波のパルス波形を計測したところ、時間幅約2 ps、ピーク電場強度1.1kV/cmの単一サイクルTHz波の発生が確認された。OCS分子を標的分子とした数値シミュレーションによって、時間分解分子イメージング法を実現するためには13 kV/cmのピーク電場が必要であることが判明し、THz波発生・集光機構の改良が必要であることが示された。 時間幅7.4 fsの近赤外数サイクルレーザーパルスによるレーザーアシステッド電子散乱過程を観測した。I_2分子を標的分子としたレーザーアシステッド電子回折信号の数値シミュレーションによって、核間距離の時間発展を7.4 fsの時間分解能で追跡できることが示された。 平成29年度に構築した電子衝撃イオン化観測装置にフェムト秒レーザーを入射し、レーザーアシステッド電子衝撃イオン化過程の観測を試みた。電子衝撃の結果、希ガス原子および水素分子によって散乱される電子と、引き続いて起こる多光子イオン化過程によって生じる放出電子を同時計測し、その結果の解析から、電子衝撃による高励起状態の生成とその解離の経路を同定した。 4. H^+_2を対象として、電子-プロトン量子動力学をEx-MCTDHF法を使って計算し、Ex-MCTDHF法が、厳密計算が予想する分子解離と分子内振動励起を正しく再現することを確認した。CH_3OH分子の電子-プロトン波動関数の量子動力学計算プログラム開発を進め、近赤外2サイクルパルスと相互作用させた場合、電子運動の励起に伴いプロトン運動が誘起されること、そして、プロトン運動に明確なCEP依存性が現れることを明らかにした。また、N_2^+の断熱フロケ状態の解析から、B-X状態間の分布反転の機構を明らかにした。さらには。光電子と親イオンの分子振動状態間の量子的相関(エンタングルメント)に関する理論的解析を展開した。1次元のH_2モデルを使った数値計算から、エンタングルメントとコヒーレンスの関係を明らかにするとともに、エンタングルメントの程度が、励起レーザーパルスの特性(時間幅や強度など)によって敏感に変化することを示した。また、新たな多電子系の時間依存有効ポテンシャル理論を構築し、MCTDHF法における軌道関数の運動を1電子シュレーディンガー方程式を使って解析することを可能とした。 Less
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 先端レーザーシステム出力パルスの搬送波包絡線位相(CEP)の安定性を改善したこと、100 kHz繰返しで取得が可能となったこと、および、高次高調波の発生に成功したことは、本研究課題の進展のための重要な成果である。 2. 先端レーザーシステム出力パルスを用いて100 kHz繰返しでCHI計測が可能となったこと、そして、数サイクルパルス、高次高調波パルスを用いた時間分解CMI測定による実験の成果は、本研究課題が順調に進捗していることを示している。特筆すべき事項として、数サイクルパルスのポンププローブ計測を用いた窒素分子イオンのレーザー発振の強度変動の観測によって、窒素分子イオンのB-X状態間の反転分布がA-X遷移によって促進されていることを実験的に示したことは、レーザー発振機構の解明に貢献するものであり、また、当初の計画になかった成果である。 3. 近赤外数サイクルレーザーパルスによるレーザーアシステッド電子散乱過程を観測できたことは、本研究課題の進展のための重要な成果である。また、原子・分子に対する高速電子衝撃に続く高強度レーザーパルス照射によって生じる散乱電子と放出電子の同時計測は、当初の計画にはなかった成果であり、電子衝撃によって生成した分子の励起状態の実時間計測が可能であることが示された。 4. H_2^+を対象としたEx-MCTDHF計算によって電子-プロトン動力学を記述できたことは、より複雑な分子の電子-プロトン動力学にEx-MCTDHF法を応用できることを示すこととなった。また、N_2^+の分布反転機構の解明は、空気のレーザー発振の現象の理解に不可欠なものである。光電子と親イオンの分子振動状態間の相関をエンタングルメントによって解釈したことは、分子の光イオン化過程の解釈に新しい観点を導入することとなった。また、新たに開発した有効ポテンシャル理論は、MCTDHFと全く同じ構造を持つ多電子波動関数を、1電子描像によって理解することが出来る従来にない定量的な手法である。
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Strategy for Future Research Activity |
2. 先端レーザーシステムの100kHz繰返し、搬送波包絡線位相(CEP)が制御されたの数サイクルレーザーパルスを用いて、分子の時間分解コインシデンス計測および時間分解イオン収量計測を行い、そして、高次高調波アト秒パルスを用いて分子の光電子一イオン同時コインシデンス計測を行い、分子のサブフェムト秒ダイナミクスの解明を推進する。強レーザー場フーリエ分光法に用いる長尺光学遅延装置の開発を進め、過渡分子種、分子イオン種などの高分解分光計測を実施する。理化学研究所との共同研究を行い、希ガスおよび分子を試料として、アト秒パルス列による電子波束および振動波束の観測を進める。 3. THz波によって誘起されるレーザーアシステッド電子散乱過程の観測を試みる。また、分子イメージングヘの応用を目指して、THz波の発生とTHz波の集光光学系の改良を行う。さらに、高い空間分解能を持つレーザーアシステッド電子回折法の実現を目指して、運動エネルギー10 keVの高速電子線によるレーザーアシステッド電子散乱過程の観測実験を実施する。 4. CH_3OHの電子-プロトン動力学の計算をさらに進めるために、時間発展ルーチンの自己無撞着性を保証するための繰り返し計算の回数を最適化する。また、1重項プロトン系の計算を実行し、電子-プロトン波束の実時間計算によって得られた波動関数を解析することによって、電子とプロトン運動の相関を明らかにする。また、水素分子に対して、電子一振動一回転運動の全てを取り入れた動力学計算を行うために、全自由度を取り入れたEx-MCTDHF計算コードを作成する。また、分子回転効果を取り入れた場合にN_2^+の反転分布が得られる条件を理論の立場から明らかにし、実験結果を解釈すことによって空気レーザー過程の機構の理解を深める。さらに、3次元H_2分子の光イオン化に伴う光電子と親イオンの振動状態の間のエンタングルメントを計算し、実験結果の解釈を通じて、エンタングルメントの程度という観点から光イオン化過程の理解を深める。また、すでに開発した有効ポテンシャル理論を使って、1次元異核2原子分子を取り扱い、通常のMCTDHF計算との比較を通じ、有効ポテンシャル理論の有用性を示す。
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Research Products
(103 results)