2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05697
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大越 慎一 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授 (10280801)
|
Project Period (FY) |
2015 – 2019
|
Keywords | 相転移 / 電磁波 / 物性化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属-絶縁体転移、強磁性相転移、強誘電性相転移などを示す相転移物質は、基礎物性とともに様々な電子デバイス、記録デバイスなどの現代社会の基盤を支える重要な材料である。一方、紫外・可視光からラジオ波におよぶ電磁波は、いろいろな形で物質と相関するが、その波長・周波数により、励起する量子状態(電子状態、振動状態、回転状態、マグノン状態、スピン状態など)は異なる。本課題では、従来では実現できなかったような光・電磁波に応答する相転移物質を創成し、次世代デバイスや環境・エネルギー問題に資する新機能性に関する研究を推進することを目的としている。今回は、特殊な形状をした種々のラムダ型五酸化三チタンを合成し、この物質が永続的に潜熱エネルギーを保存することができ、圧力印加により、熱エネルギーを放出してベータ型五酸化三チタン(β-Ti_3O_5)へと相転移することを見出した。電気的性質は、λ相が金属的であり、β相は半導体的であるため、圧力誘起金属-半導体相転移を観測したことになる。また、電流誘起金属-半導体相転移も見出した。この物質の金属-半導体転移のメカニズムを検証するため、フォノンモード計算を行い、各熱力学パラメーター(ギブス自由エネルギー、エンタルピー、エントロピー)の温度依存性を算出したところ、λ相とβ相は500K以上で熱的に相転移することを理論的にも見出した。また、Tiイオンを他種の金属イオンで置換した金属置換型-λ-Ti_3O_5を合成し、光照射により、光誘起金属-半導体転移の観測に成功している。一方、三酸化二鉄の外場による結晶構造相転移を検討するため、β-Fe_2O_3に超高圧を印加した結果、これまでに知られていない新規結晶構造(空間群I2/a)であることが判明し、この構造体をゼータ型-三酸化二鉄(ζ-Fe_2O_3)と名づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特殊な形状をしたラムダ型五酸化三チタンおよびその類似体において、電流誘起、圧力誘起および光誘起の金属-半導体転移を観測に成功したが、このラムダ型五酸化三チタンからベータ型五酸化三チタンへの固体-固体相転移の際の放出エネルギーはたいへん大きく、且つ、圧力を印加しなければ永続的に潜熱エネルギーを保存できるため、“蓄熱セラミックス”という新しい発想に至った。この新概念は、熱エネルギーマネージメントという観点から、産業界からたいへん注目を浴びており、本課題の目的である環境・エネルギーに資する機能開拓という観点から、貴重な進展であると考えている。 本研究課題では積極的に特許出願も行っており、本期間内に既に18件の特許出願を行っている。また、本期間内に、実用化に関して興味を持っている民間企業41社と延べ117回の研究打合せを行っている。 酸化鉄の外場による結晶構造相転移の検討において、ε-Fe_2O_3に超高圧をかけた場合にはα-Fe_2O_3に相転移したので、β-Fe_2O_3の場合もα-Fe_2O_3に圧力誘起相転移すると予測していたが、これまでに知られていない新規結晶構造(空間群I2/a)、ゼータ型-三酸化二鉄(ζ-Fe_2O_3)が得られたことは貴重な進展であった。 なお、ε-Fe_2O_3に関しては、英国国立科学博物館(サイエンスミュージアム)より特別展示の依頼を受けており、現在、展示品を博物館へ提供している。2016年7月より展示がスタートする予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
反転対称の破れた結晶構造を有する新規磁性体やその金属置換体に対してレーザー光を照射し、出射される高調波の温度依存性、波長依存性を調べることにより、電子遷移と磁気双極子の相互作用について解析する。通常の磁性体のファラデー効果は、可視・近赤外域における電子励起に起因している。一方、GHz帯域では、電磁波の磁場成分による磁気双極子励起が生じ、回転角や楕円率が変化する。そこで、磁性物質におけるマグノン励起を検討し、ミリ波ファラデー効果を検討する。 イオン伝導性を示す金属錯体の合成を行い、その物性評価を行う。光照射による伝導度の変化が観測可能な測定装置を製作し、光イオン伝導の測定を行う。また、有機配位子の導入を行うことにより、誘電性を有する金属錯体を合成し、その誘電特性を評価する。中心対称性が破れた物質は磁気分極と電気分極を有しているため、磁場や電場により粒子を配向させることができると考えられるため、母材に分散した粒子を磁場や電場中で乾固させることにより、配向した膜の作製も行う。本研究課題の一つであるミリ波材料学を構築するため、磁気異方性の大きな磁性物質の開発を推進する。 本研究では、種々の電気的機能性を付与した電荷移動型三次元ネットワーク金属錯体を合成し、室温で光電荷移動型相転移を引き起こすことで、ドラスティックな色相変化などの光スイッチングを測定する。また、第一原理計算および分子軌道法を用いて、電子構造を明らかにし、結晶磁気異方性の起源を調べる。磁気ヒステリシスの再現は、平均場近似を行い、結晶磁気異方性に対する熱的ゆらぎを考慮することによって検討する。さらに、理論計算により、金属置換などによる磁性体の色調変化を予想し、様々な色調の磁性体を設計する。
|
Research Products
(85 results)
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] イプシロン型酸化鉄ナノ磁性体の合成および磁気特性の観測2016
Author(s)
吉清まりえ, 生井飛鳥, 井元健太, 太郎良和香, 中川幸祐, 小峯誠也, 宮本靖人, 奈須義総, 岡俊介, 所裕子, 大越慎一
Organizer
日本化学会第96春季年会
Place of Presentation
同志社大学(京都府京田辺市)
Year and Date
2016-03-24
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] Study of phase transitions between γ-Ti_3O_5and δ-Ti_3O_52015
Author(s)
T. Nasu, K. Tanaka, Y. Miyamoto, N. Ozaki, S. Tanaka, T. Nagata, F. Hakoe, M. Yoshikiyo, K. Nakagawa, Y. Umeta, K. Imoto, H. Tokoro, A. Namai
Organizer
The Internatonal Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem2015)
Place of Presentation
ホノルル(米国)
Year and Date
2015-12-17
Int'l Joint Research
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] Charge Transfer and Spin Transition Phenomena in Cyanido-Bridged {M_9[M'(CN)_8]_6}(M=3d metalion, M'=W, Re) Molecules2015
Author(s)
S. Chorazy, R. Podgajny, K. Nakabayashi, W. Nogas, M. Rams, J. Stanek, W. Nitek, B. Sieklucka, S. Ohkoshi
Organizer
XXV. International Conference on Coordination and Bioinorganic Chemistry
Place of Presentation
スモレニツェ(スロバキア)
Year and Date
2015-06-03
Int'l Joint Research
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-