2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05699
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
新田 淳作 東北大学, 工学研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | スピン軌道相互作用 / スピン緩和機構 / スピンホール効果 / スピン軌道トルク / スピントランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 半導体における電界によるドリフト輸送時のスピンダイナミクスを磁気光学効果イメージングによって計測し、①高速輸送時には電子温度の上昇がスピンダイナミクスを変化させること、②スピン軌道相互作用の空間対称性が高速輸送時にも保たれること、の2点を突き止め、スピン情報伝送の高速化に必須な高電界下においてもRashba効果を利用したスピン軌道エンジニアリングが有用であることを明らかにした。 2. スピン緩和の抑制と長距離スピン輸送に適した半導体材料として層状半導体GaSeのスピン輸送特性を実験的に解析し、同程度のエネルギーギャップと価電子帯スピン分離エネルギーを有すGaAsに比べて10倍以上大きなRashbaスピン軌道相互作用を有す材料である事を見いだした。また、スピン軌道相互作用が弱い材料として知られているCuにおいて、スパッタ成膜中酸化させるもしくは自然酸化させるとビスマス薄膜と同程度までスピン軌道相互作用が増大することを見出した。さらに、結晶構造が同一のワイドギャップ半導体BaSnO3と半金属物質BaPbO3の合成に取り組み全率固溶型混晶薄膜が得られ、①組成比の変化がバンドギャップも変化させる可能性を示唆する伝導特性、②磁気抵抗効果ではバンドギャップが小さくなるにつれ弱局在効果から弱反局在効果へ変化すること、が観測された。以上により、スピン軌道相互作用が増大していることを示唆する結果を得た。 3. 強磁性トンネル接合を用いた電圧印加による強磁性体の異方性磁界の制御について、実験を行った。強磁性トンネル接合の抵抗値が低いほど電圧による異方性磁界の変化が大きくなることを明らかにし、電圧で異方性を変化させることが可能となった。またスピン干渉デバイスにおいて、面内磁場の方向はスピン動的位相を、面内磁場の強さはスピン幾何学位相を制御することを理論的に示すとともに実験的に確認する事に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
半導体を用いたスピンオービトロニクスにおいては、2つの量子ポイントコンタクトを用いた電気的スピン生成・検出を実現するともに、ゲート電界による永久スピンらせん状態とその逆状態の制御、面内電界によるスピン長距離輸送の実現など、今後のスピンデバイスに要素技術を構築しつつある。また、高電界による高速スピン輸送時にはDresselhausスピン軌道相互作用を通じてスピン歳差運動が変調される新現象を見いだした。 室温動作を可能にする金属系のスピン軌道相互作用の研究は、PtやTaなどエピタキシャル薄膜を用いる事によりヘテロ界面の反転対称性の破れがスピン伝導と緩和機構に大きな影響をもたらしていることを明らかにするとともに、スピン軌道相互作用が弱いとされるCuにおいても酸化等によりスピン軌道相互作用が増大することを実験的に見いだした。また、強磁性トンネル接合においては電圧印加により異方性磁場を制御する事に成功し、トンネル接合の抵抗値が低いほど異方性磁場の変化が大きくなることを明らかにした。 新奇スピン依存電磁場効果として、アハロノフ・キャシャー効果に着目し、スピン歳差運動に起因したスピン動的位相は面内磁場の方向により、スピン幾何学位相は磁場の強さにより独立に制御出来ることを理論的に示すとともに、実験的に確認した。スピン軌道相互作用を空間的に変調したスピン軌道超格子では、スピントルクが膜厚に強く依存するなど、新しいデータが得られつつある。 以上により、研究は順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
半導体を用いたスピンオービトロニクスにおいては、RashbaとDresselhausスピン軌道相互作用の精密制御によりスピンの長距離輸送可能な永久スピンらせん状態とその逆状態を電界操作すると共に、量子ポイントコンタクトにより電気的スピン生成・検出を実証できたことから、今後は室温動作が可能な、よりスピン軌道相互作用の強い材料系に研究の中心を移していく。 平成29年度までに、金属系のスピン軌道相互作用やスピン軌道トルクを評価する手法をほぼ確立する事ができたため、平成30年度以降は、半導体系で得られた要素技術化やデバイス化の知見をスピン軌道相互作用のより強い金属系・酸化物系に応用展開する。スピン軌道相互作用が強い物質を組み合わせたヘテロ構造や超格子構造などの薄膜積層構造の作製に展開し、電界制御と界面における新規スピン物性の探索を狙う。 具体的には、半導体量子構造にBiなどに期待される巨大スピン軌道相互作用を導入することや、閉じ込めの低次元化によるスピン散乱抑制効果の発現をねらい、スピンの高感度測定技術を利用した光学実験を進める。特定の砒素圧条件下で成長した試料では、発光に寄与しないスピン偏極状態が20ナノ秒以上持続することを発見したことをふまえ、従来の発光ベースの方法では検出されていなかったダーク状態のスピン物性について、Two-colorポンププローブ測定を利用した詳細な時間・エネルギー分解測定により、長寿命スピンのメカニズムの解明を目指す。 これまでに強磁性体/非磁性体構造を用いたスピン軌道トルクの評価法とスピンホール磁気抵抗を用いたスピン軌道トルクの評価法を確立し、金属系におけるスピン軌道相互作用の定量評価が可能になった。CuOに加えて他の材料系における酸化の影響を調べると共に、酸化物/金属界面で生まれるRashbaスピン軌道相互作用の評価を行っていく予定でいる。同時に、エピタキシャルPtやTaなどこれまでは多結晶で用いられてきた材料系を高品位にすることで生まれる新たな物理的現象に着目し、無磁場における磁化反転やスピン軌道トルクの外部制御手法を確立する。 スピン軌道超格子膜において、膜構成によるスピンホール角増大の原因解明とスピンホール角が増大する素子構造の探索を行う。スピンホール角が膜厚に依存するのが、量子井戸によるものか各層の結晶構造によるものか、など解明を行う。材料の組み合わせ・膜厚などとスピンホール角の関係を調べることで、スピンホール角の増大を目指す。 新奇金属酸化物薄膜のスピン物性の評価と制御に取り組む。フォトリソグラフィによるチャネル形成とパリレンポリマーやイオン液体を用いたトランジスタの作製技術を組み合わせることで、電界効果素子の作製が可能となったことをふまえ、従来の半導体2次元電子系における知見を酸化物に応用展開する。特に、バンドギャップ制御した薄膜をチャネルとした電界効果トランジスタ構造において、磁気抵抗効果の電界強度依存性やスピン緩和機構を明らかにし、スピン軌道相互作用の起源に迫るとともに、スピン軌道相互作用の大きさと電子構造の関係に明らかにする実験を進める。
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Research Products
(77 results)