2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05699
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
新田 淳作 東北大学, 工学研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | スピン軌道相互作用 / スピン軌道トルク / スピンホール効果 / スピン緩和機構 / スピン干渉デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Co/Pt構造において多結晶およびエピタキシャル薄膜を用いてスピン軌道トルク磁化反転を実現した。これらの結果を比較し、スピンホール効果に起因するスピン流は比抵抗で決まる散乱要因によって支配されていることを明らかにした。 従来スピン軌道相互作用の弱い材料として知られるCuに窒素を導入することによりスピン軌道相互作用が強くなるとともにスピン軌道トルクも増大することを発見した。 α-TaはアモルファスTaに比べ、スピンホール角が小さいことが報告されているが、(111)に配向したエピタキシャルα-Ta/CoFeBでは、アモルファスの場合に比べてスピンホール角が大きくなることを見出した。 InGaAs2次元電子ガスの強いRashbaスピン軌道相互作用に起因したスピン-軌道ロッキング効果を用いたスピン制御に成功した。量子ポイントコンタクトと磁気フォーカシングを組み合わせたナノトランジスタ構造を作製し、量子ポイントコンタクトによる電気的スピン生成・検出とスピン-軌道ロッキングによるスピン制御を全て電気的に実現したことになる。 InGaAs2次元電子ガスを用いたスピン干渉デバイスを作製し、面内磁場印加方向に対するスピン干渉の異方性がゲート電界により反転することを見出した。スピン干渉の異方性反転は、線形Dresselhausスピン軌道相互作用の符号反転によるものであることを実証した。この結果は、従来物質固有と考えられてきたDresselhausスピン軌道相互作用は、外部から制御可能となることを初めて実証した結果である。 GaAs中内でスピン軌道相互作用の影響を受けるドリフトスピンのダイナミクスを実験・理論の両面から解析した。スピンパケットの位相速度という新概念を導入すると、その値が負から正にダイナミックに変化することが判明し、ユニバーサルな現象として説明できることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン干渉デバイスを用いることにより、ゲート電界により線形Dresselhausスピン軌道相互作用の符号反転が可能となることを見出した。また、これまでに実現してきたスピン生成・スピン制御・スピン検出の統合を図るため、量子ポイントコンタクトと磁気フォーカシングを組み合わせたナノトランジスタ構造を作製し、量子ポイントコンタクトによる電気的スピン生成・検出とスピン軌道ロッキングによるスピン制御を全て電気的に実現することに成功した。これにより、スピントロニクスデバイスに不可欠なスピン生成・制御・検出機能をスピン軌道相互作用のみを用いて実現できることを実証した。半導体中のスピンダイナミクスを解明する手段として時間空間分解Kerr回転測定をベースとする実験手法を活用し、スピン輸送の精密制御を可能とする位相速度に関するユニバーサルな現象を明らかにすることに成功した。 スピン軌道超格子では、Pt/Wの特性について、FMR測定により新たな知見を得ることができている。具体的には、磁性体から離れたW/Pt系で生成されるスピン軌道磁場(スピン蓄積)が重要な役割を果たしていることを見出した。また、窒素を導入したCuやエピタキシャルTa膜においてスピン軌道トルクの増大効果がもたらされることを発見した。 光学的手法による電子構造評価から、金属酸化物全率固溶型混晶薄膜において、組成制御による系統的なバンドギャップ変化を観測した。また、低温弱磁場磁気伝導度からスピン軌道相互作用の有効磁場の大きさを評価する手法を確立し、バンドギャップ狭小化に対応するスピン軌道相互作用の増大を見出すことに成功した。以上よりおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
半導体を用いたスピンオービトロニクスにおいては、RashbaとDresselhausスピン軌道相互作用の精密制御によりスピンの長距離輸送可能な永久スピンらせん状態とその逆状態を電界操作を可能にするとともに、量子ポイントコンタクトにより電気的スピン生成・検出とスピン軌道ロッキングによるスピン制御を全て電気的に実現することに成功した。半導体系においては電気的なスピン生成・制御・検出とその統合を実証できたことから、今後は室温動作が可能な、よりスピン軌道相互作用の強い材料系に研究の中心を移していく。 最終年度では、これまで蓄積してきた半導体および金属におけるスピン軌道相互作用制御を最大限に活用し、ゼロ磁場磁化反転や半導体細線構造におけるスピン軌道相互作用の電気的検出を精力的に進め、半導体で蓄積してきたスピン軌道相互作用制御の深化と共に、それらの知識を金属構造に展開し、スピントロニクスデバイスへと昇華させる。また、グループ内での共同研究を促進することで共著論文を執筆し、互いの研究に相乗効果を生み出すことでスピンオービトロニクスに資する研究展開をグループ内でも発展・維持していく。 具体的にはTa, W, Ptといったよく知られた重金属を組み合わせる事や、窒素や酸素のドーピング、トポロジカル絶縁体などスピン軌道トルクを創発する新しいスピン軌道材料の作製に取り組む。本スピン軌道トルクは、磁気デバイスの本幹を成す磁化反転に有用であるので、より高効率で機能的なスピン軌道材料の開発に取り組んでいく予定である。特に注目しているのは、ドーピングにより抵抗率増加が抑制される電気伝導性酸化物である。 新規スピン流生成材料(スピン軌道超格子、エピタキシャル(高配向)Ta, W, Pt等)のスピンホール角をST-FMR法、SMR法やハーモニック法を用いて評価するとともに磁化反転実験を行う。これまでに開発したスピン生成材料を電極とする強磁性トンネル接合を作製し、磁化反転にスピントルクを用いる電場制御スピン軌道トルクデバイスの開発を行う。また、Bi(111)などの巨大スピン軌道相互作用を示す材料上に作製した強磁性体の磁気特性の評価を行う。 これまでに解明した半導体内のスピンの動的振る舞いを積極的に利用した新規スピン制御手法をデモンストレーションする。さらに光学的アプローチによるスピン物性探索では、GaAsBiに加えBi薄膜やトポロジカル絶縁体など関連する材料にも展開し、巨大スピン軌道相互作用が関わる物理現象を解明し、その応用の可能性を探る。 最終年度では、これまで明らかにしてきた酸化物薄膜における電子構造とスピン軌道相互作用の制御技術をさらに発展させ、単相膜及びヘテロ構造におけるスピン依存伝導現象の電界制御及び解明に取り組む。
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Research Products
(74 results)