2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05703
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高柳 広 東京大学, 大学院医学系研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2015 – 2019
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Keywords | 骨代謝 / 免疫 / 造血 / 関節リウマチ / 自己免疫疾患 / 自己寛容 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、骨疾患・免疫疾患における骨-免疫系作用の生理的意義を包括的に解明し、疾患克服に向けた研究基盤の構築を目指す。 ①自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : 我々は以前Foxp3+T細胞から分化転換したTh17細胞(exFoxp3Th17細胞)が関節リウマチにおける炎症と骨破壊の増悪化を促す重要なT細胞であることを報告した。今回exFoxp3Th17細胞が口腔細菌依存的に歯周炎組織に集積し、歯槽骨破壊を起こすと共に、抗菌免疫の誘導と歯の脱落を介した口腔細菌の感染防御にも携わることを見出した。本研究によりexFoxp3Th17細胞の新たな生理的・病理的機能を明らかにした。またヒトゲノム情報の独自の解析によって、胸腺特異的プロテアソームサブユニット・β5t遺伝子(PSMB11)に高頻度のdamaging variationが複数存在することを見出した。PSMB11 damaging variationを導入したマウスでは胸腺におけるMHC結合ペプチドが変化し、CD8 T細胞の正の選択の低下とTCRレパトアの変容が生じることが判明した。日本人に高頻度に検出されるPSMB11 G49S variationがシェーグレン症候群のリスクと関連することも分かり、プロテアソームの多様性がT細胞の抗原認識と疾患感受性を決定づけるという新たな概念を創出した。 ②新たな骨-免疫系インタラクションの解明 : 骨折治癒、自己炎症、腫瘍転移等に関わるIL-17産生型gdT細胞(gdT17)の分化制御機構の解明は重要課題である。我々は胸腺にてgdT17細胞の分化を制御するT細胞受容体(TCR)シグナルの重要性を明らかにした。gdT細胞ではSykがTCR近傍の主要なチロシンキナーゼとして機能すること、さらにSykの下流としてPI3K-AKT経路がgdT17細胞の分化に必須であることを明らかにした。本成果から、Syk-PI3K経路がgdT17依存的な炎症性疾患の治療標的となる可能性が示唆された。またM細胞誘導細胞(MCi cells)について、新たなMCi細胞特異的Creドライバー系統としてCol6a1-Creマウスを見出した。Col6a1-Creを用いたRANKL欠損マウスはM細胞の欠損とIgA産生の減少、腸内細菌叢の変容を呈し、この系統がMCi細胞研究のツールとして有用であることを示した。 ③骨髄微小環境における骨免疫制御 : 骨髄微小環境は造血幹細胞や免疫前駆細胞の維持や分化に必要であり、炎症などの外的ストレス刺激が入ると、骨髄を構成する骨代謝細胞が障害を受け、その結果免疫機能の低下に繋がる。我々は他の外的ストレスとして、腫瘍及び性ホルモンバランス異常に着目し、こうしたストレスで生じる骨髄微小環境の障害をマウスの病態モデルを用いて検討した。各ストレス状況下で関与する骨髄細胞間コミュニケーション分子を見出しており、これらの因子を介した骨髄環境-免疫システムネットワークの重要性を明らかにすることで、骨髄障害を発端とした個体の機能低下メカニズムを解明することに挑む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : exFoxp3Th17細胞が歯周炎においても炎症と骨破壊を誘導する責任細胞であることを見出した。歯周炎ではexFop3Th17細胞が抗菌免疫の誘導と歯の脱落を介して口腔細菌の感染防御に貢献することを明らかにし、関節炎では炎症の副次的効果と捉えられていた炎症性骨破壊が、歯周炎では口腔細菌感染に対する生体防御機構としての役割を担うという全く新しい概念を提唱することができた。またプロテアソーム遺伝子PSMB11に高頻度のdamaging variationが複数存在し、日本人に高頻度に検出されるG49S variationがシェーグレン症候群のリスクと関連することを報告した。MHC結合ペプチドを産生するプロテアソームの多様性がT細胞の抗原認識レパトアと自己免疫疾患の感受性を決定づけるという画期的な発見となった。さらに胸腺上皮細胞でのみFezf2と相互作用するクロマチン制御因子の同定に成功しており、Fezf2による中枢性免疫寛容の制御機構の解析を進めている。 ②新たな骨-免疫インタラクションの解明 : これまでに認知されていなかったSyk-PI3Kを介するTCRシグナル経路がgdT17細胞の分化に必須であり、Syk-PI3K経路が乾癬などの炎症性疾患に対する有効な治療標的となる可能性を示すことができた。また新たなMCi細胞特異的Creドライバー系統・Col6a1-Creを見出し、この系統がMCi細胞研究のツールとして有用であることを示すことができた。進行性骨化性線維異形成症(FOP)は外傷やウイルス感染が契機となり軟組織に異所性骨化を生ずる遺伝性疾患であるが、我々は外傷性炎症によって出現し、骨化誘導を促す特定の免疫細胞サブセットの候補を見出しており、FOP病態の包括的な理解と新規治療標的の開発に向けて解析を進めている。 ③骨髄微小環境における骨による免疫制御 : 腫瘍や性ホルモンバランス異常における骨髄環境障害に関与する、骨髄細胞間コミュニケーション因子を見出すことができた。遺伝子欠損マウスの解析から生体レベルでその病理的意義を実証できており、骨髄変容を軸にした新たな病態誘導機構の解明に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
①RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 前年度に引き続き、関節炎と骨破壊を増悪化する新規T細胞サブセット・exFoxp3Th17細胞特異的因子の遺伝子改変マウスの作製を行い、表現型の解析を通してexFopx3Th17細胞の分化・機能制御機構の解明を目指す。またexFoxp3Th17細胞だけに限らず、胸腺T細胞の発生や末梢におけるナイーブT細胞、活性化T細胞の生存維持に関わる重要因子を、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、並びに公共のGWASデータベースを駆使して同定・解析を続け、遺伝子欠損マウスの解析を通じて、その生理的・病理学的意義の解明につなげる。さらにFezf2と共役する分子群を質量分析装置を用いて同定し、特にクロマチン制御因子に着目して機能解析を進める。共役分子の機能を明らかにすることで、Fezf2を中心とした転写ネットワークの全容を解明し、中枢免疫寛容の成立機構の理解を目指す。 ②新たな骨-免疫インタラクションの解明 gdT17の生理的・病理的意義を明らかにするため、gdT17を完全に欠損するSykコンディショナルノックアウトマウスを作製し、炎症性疾患や組織修復モデルにおける影響を精査する。また、胸腺微小環境におけるgdT細胞の分化とレパトア形成の分子基盤を明らかにするため、候補因子である複数のSkintファミリー遺伝子をCRISPR/Cas9法によって欠損させたマウスを作製し表現型解析を進めている。また外傷により軟組織に異所性骨化が生ずるFOPモデルマウスにおいて、ある特徴的な免疫細胞が損傷部位ならびに骨化部位に集積していることを見出している。この外傷誘導性免疫細胞の活性化機構、ならびに異所生骨化誘導機構を分子レベルで明らかにすることを目指す。特に外傷誘導性免疫細胞の遺伝子発現パターンや細胞膜タンパク質の発現を網羅的に解析することで、当該細胞に特徴的なマーカー遺伝子の探索に注力する。外傷誘導性免疫細胞の活性化に関わるシグナル伝達経路を特定することができれば、各種シグナル阻害剤による異所性骨化の治療効果を検証する。最終的に外傷誘導性免疫細胞による新たな骨制御メカニズムを明らかにし、外傷誘導性免疫細胞を標的とした新たな治療戦略の提案を目指す。FOP以外にも、骨と免疫系の相互作用が関わる疾患として、変形性関節症やがんの骨転移、骨髄線維症にも着目し、それらの病態モデルマウスの解析から、病態形成に関与する骨代謝細胞および免疫細胞の同定、さらには両者間の相互作用を分子レベルで明らかにし、骨-免疫インタラクションを標的とした新規治療法の創出に繋げる。 ③骨髄微小環境における骨による免疫制御 腫瘍もしくは性ホルモンバランス異常に応じて変容する骨髄微小環境と免疫システム障害のメカニズムを、マウスの病態モデルを用いて解析を進める。すでに、腫瘍もしくは性ホルモンバランス異常により生ずる骨髄環境障害に関与する骨髄細胞間コミュニケーション因子をそれぞれ見出すことができている。これらの遺伝子欠損マウスの表現型解析を引き続き進め、さらには同定した骨髄細胞間コミュニケーション因子の産生細胞を特定することで、産生細胞特異的に欠損させたコンディショナルノックアウトマウスの作製に繋げる。産生細胞および標的となる骨髄構成細胞を用いたin vitro培養実験から、骨髄細胞間コミュニケーション因子による骨髄障害の誘導機構を分子レベルで解析する。また骨髄細胞間コミュニケーション因子が腫瘍及び性ホルモンバランス異常により誘導される機序と、生体内の分子動態を明らかにする。骨髄細胞間コミュニケーション因子を介した骨髄環境の破綻によって生じる免疫システム障害を検討し、こうした外的ストレス状況下における骨による免疫制御の病理学的意義の解明に結びつける。さらには、加齢やメカノストレスといった他の外的ストレス状況にも注視し、これらの骨髄細胞間コミニュケーション因子が他の外的ストレスによる骨髄環境/免疫システム障害にも関与するか、病態モデルマウスを用いて検証する。最終的にこれらの成果を統合し、骨による免疫制御の破綻が疾患に繋がるという新たな概念を打ち出すことを目指す。
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Research Products
(90 results)
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[Journal Article] RANK rewires energy homeostasis in lung cancer cells and drives primary lung cancer2017
Author(s)
Shuan Rao, Verena Sigl, Reiner Alois Wimmer, Maria Novatchkova, Alexander Jais, Gabriel Wagner, Stephan Handschuh, Iris Uribesalgo, Astrid Hagelkruys, Ivona Kozieradzki, Luigi Tortola, Roberto Nitsch, Shane J. Cronin, Michael Orthofer, Daniel Branstetter, Jude Canon, John Rossi, Manolo D'Arcangelo, Johan Botling, Patrick Micke, Linnea La Fleur, Karolina Edlund, Michael Bergqvist, Simon Ekman, Thomas Lendl, Helmut Popper, Hiroshi Takayanagi, Lukas Kenner, Fred R. Hirsch, William Dougall and Josef M. Penninger
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Journal Title
Genes & Development
Volume: 31
Pages: 2099-2112
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Identification of a p53 target, CD137L, that mediates growth suppression and immune response of osteosarcoma cells2017
Author(s)
Yusuke Tsuda, Chizu Tanikawa, Takafumi Miyamoto, Makoto Hirata, Varalee Yodsurang, Yao-zhong Zhang, Seiya Imoto, Rui Yamaguchi, Satoru Miyano, Hiroshi Takayanagi, Hirotaka Kawano, Hidewaki Nakagawa, Sakae Tanaka, and Koichi Matsuda
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 7
Pages: 10, 739
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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