Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, サイトゾルからミトコンドリアへのタンパク質の輸送, および膜間の脂質の輸送を中心に, ミトコンドリアが細胞内でいかに作られるかという根源的問題の分子機構を統合的に理解することをめざしている。 まずタンパク質の交通については, TOM複合体の動的制御におけるポリン(Por1)の役割に関する解析結果が, 投稿準備段階である。Por1はTOM複合体の3量体-2量体間平衡を制御すること, 3量体と2量体は膜透過させる基質が異なることを見いだし, TOM複合体の3量体-2量体間の動的平衡の意義がはじめて明らかになった。TOM複合体の構造解析については, S. cerevisiaeのTOM複合体についてGraFix法による架橋を最適化することで, クライオ電顕観察で解析に適した粒子像を多数得ることに成功した。また精製TOM複合体の高速AFM観察にもはじめて成功, 3量体が一部壊れると2量体に変化する瞬間を目撃することができた。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1について, 分解基質のユビキチン化に, 意外にも異なるオルガネラであるERのE2, E3が関与すること, 別のAAAタンパク質Cdc48もMsp1と協力して働くことを見いだした。これらについては学会発表を行った。 脂質輸送については, ER-ミトコンドリア間コンタクト部位をつくるERMES複合体のサブユニットMdm12と脂質の複合体の構造を決定した。さらにMdm12およびもう一つのサブユニットMmm1は単独では膜間で脂質輸送を効率よく行えないが, Mmm1-Mdm12複合体をつくると膜間で効率よく脂質輸送を行えること, したがってERMESの脂質輸送能を担う最小単位であることを証明し, 論文として発表した。また出芽酵母では様々なオルガネラ(ER, ミトコンドリア, 液胞, ペルオキシソーム, 脂肪滴)間でコンタクト部位が形成されることをsplit-GFPを用いて発見, 論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タンパク質輸送については, TOM複合体の動的制御におけるポリン(Por1)の役割に関する解析を進め, Por1がTOM複合体の3量体-2量体間平衡を制御すること, 3量体と2量体は膜透過させる基質が異なることを見いだすなど, 当初の予想を超える重要な発見があった。トランスロケータの構造解析については, 外膜のTOM複合体, SAM複合体, 内膜のTIM23複合体について, クライオ電顕観察に向けた試料の調製が順調に進み, TOM複合体, SAM複合体(Mdm10が解離したアポ複合体, 結合したホロ複合体)については, 解析可能な粒子を多数観察することに成功, TOM複合体の高速AFM観察にも成功した。ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1については, 基質のユビキチン化にERのタンパク質が関わるなど, 予想を超えた結果が得られた。オルガネラ間コンタクトについては, split-GFPを用いて酵母細胞内で様々なオルガネラ間にコンタクト部位が存在することを見いだし, さらに, 哺乳細胞を用いた系でも, ミトコンドリア・小胞体間に加え, ミトコンドリア・リソソーム間, ミトコンドリア・ゴルジ体間にもコンタクトサイトがあることを見出した。ERMESのクラスタリングが, ミトコンドリアの融合と分裂以外にも, 小胞体ストレス誘導条件下で劇的に増加すること, このERMESクラスタリングの増加が, ERMESタンパク質の増加によるものではないことや, 小胞体ストレス関連因子Ire1やHac1が欠損した条件でも起きることを見出すなど, 予想を超えた進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を開始して3年近くが経過したが, 特に問題は生じていない。酵母細胞を大量に効率よく破砕するための設備機器(マルチビーズショッカー)を導入し, 使用を開始している。研究代表者のグループでは研究員4名(エフォート管理による), 研究補助員3名, 研究分担者のグループでは研究員1名を雇用し, 順調に研究が進んでいる。 今後の研究計画は以下の通り。 ・Por1によるTOM複合体の3量体-2量体の動的平衡の制御はきわめて重要な発見なので, Tom22との相互作用に欠損があるPor1変異体を取得し, これを用いて動的平衡制御の分子機構の解析を進める。 ・外膜トランスロケータTOM複合体, SAM複合体, 内膜トランスロケータのTIM23複合体については, クライオ電顕観察に適した試料調製が進んでいるが, クライオ電子顕微鏡の測定の順番待ちが律速となっている。共同研究を行っている吉川研(東大)で最新の電顕が近く稼働するので, これを用いた効率よい高分解能単粒子解析を期待している。また高速AFM観察に成功したので, ミトコンドリアタンパク質前駆体にAFMで観察しやすいDNAを結合させた人工基質を用いて, TOM複合体のチャネル内に基質が入る瞬間をリアルタイム観察したい。 ・Msp1の機能解析については, いま最もホットでかつ競争の激しいテーマであるため, ミトコンドリア, ER, サイトゾルのタンパク質が協力して実行する基質分解の経路と機構の解明を論文発表に向けて詰めるとともに, Msp1の外膜の異常タンパク質分解以外の機能の検索も進める。すでにMsp1過剰発現により, 様々なミトコンドリアタンパク質のインポートが低下することを見いだしているので, その理由を明らかにしたい。 ・オルガネラ間コンタクトについては, split-GFPを用いたオルガネラ間相互作用評価実験系を用いて, 新規オルガネラ間相互作用調節因子の検索および, 様々な条件下(栄養, ストレスなど)でオルガネラ間相互作用の変化(ダイナミクス)を検証する。ERストレスによってER-ミトコンドリア間コンタクトであるERMESクラスターが増加する分子メカニズムを明らかにする
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