Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, サイトゾルからミトコンドリアへのタンパク質の輸送, および膜間の脂質の輸送を中心に, ミトコンドリアが細胞内でいかに作られるかという根源的問題の分子機構を統合的に理解することをめざしている。 まずタンパク質の交通については, 外膜でほとんどのミトコンドリアタンパク質の入り口として働くTOM複合体について, 小分子輸送体のポリン(Por1)との機能的関係をはじめて明らかにした。すなわち, Por1はTOM複合体から解離したTom22に結合することで, 細胞周期依存的にTOM複合体の3量体-2量体間平衡を制御し, 3量体は大部分のミトコンドリアタンパク質の輸送を担うが, 2量体は膜間部のタンパク質の輸送を選択的に担うことを見いだした(Mol. Cell 2019)。TOM複合体の構造解析については, 出芽酵母のTOM複合体(2量体)について, クライオ電顕観察と単粒子解析により, 3.8Åの分解能で精密構造決定に成功した。各サブユニットの構造形成における役割, Tom40のN端配列が膜間部の基質の輸送に必須であること, 2量体界面に挿入された脂質の役割など, 新たな知見が数多く得られた(投稿中)。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1について, Msp1は分解基質(ミトコンドリア外膜に誤配送された異常タンパク質)を一時的に外膜から引き抜き, 分解基質はおそらくER-ミトコンドリアコンタクト部位においてERに移動。ERのDoa10が分解基質をER上でユビキチン化, 次に別のAAAタンパク質Cdc48が基質を引き抜いてプロテアソームによる分解に回すことを見いだした(投稿中)。 ミトコンドリア内でのリン脂質輸送が, ミトコンドリアのクリステ構造形成に重要であることを明らかにし, 論文として報告した(Cell Rep. 2019)。さらにSplit-GFPを用いてオルガネラコンタクトサイトを可視化する実験系を駆使したスクリーニングにより, ミトコンドリアの融合分裂機構がミトコンドリアーER間コンタクトサイトの数の制御に重要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タンパク質輸送については, タンパク質輸送体のTOM複合体と小分子輸送体のポリン(Por1)の機能的関係に関する解析を進め, Por1の制御により, TOM複合体はサブユニット組成を動的に変えることで, 構造も性質も異なる多様な基質の認識と輸送を実現しているという, 当初の予想を超える重要な発見があった。トランスロケータの構造解析については, 最上位機種のクライオ電顕が東大に導入されたことから利用者が殺到し, 当初の予定通り測定が行えなくなった。しかしその中で試料調製法の再検討などを進め, 数少ない測定の機会を有効に利用して, 3.8Åの分解能で外膜のTOM複合体の精密構造決定に成功した。膜タンパク質複合体のクライオ電子顕微鏡解析についてはノウハウが少なく手探りであったが, 試料調製法を試行錯誤する中で構造決定への流れと感触をつかむことができたのは大きい。従来の低分解能の構造ではわからなかった, TOM複合体の構造と機能について多くの新しい知見を得ることができた。ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1については, ミトコンドリアを越えたオルガネラーサイトゾル連携が明らかとなり, 細胞内のタンパク質品質管理の従来の描像を書き換える成果が得られた。ミトコンドリアからERへの異常タンパク質の移動は, これまで知られていなかった全く新規の現象であり、大きなインパクトを与えるものと考えられる。ミトコンドリア内膜のクリステ構造が形成される分子メカニズムはほとんど研究されてこなかったが, 今回ミトコンドリア内リン脂質輸送が重要であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を開始して4年近くが経過した。構造解析に重点をおいたCREST研究が29年度で終了したので, ミトコンドリアのトランスロケータ複合体の構造解析を本研究に引き継ぎ, 構造解析の研究も進めている。 今後の研究計画は以下の通り。 ・Por1によるTOM複合体の3量体-2量体の動的平衡の制御を介した機能制御は, 発酵培地で培養した酵母において見られる現象であり, 呼吸培地で培養した酵母では見られない。この理由の追及が重要であるため, 発酵培地で培養した細胞から単離したミトコンドリアと呼吸培地で培養した細胞から単離したミトコンドリアの違いを検討する。また, Tom22との相互作用に欠損があるPor1変異体を取得し, これを用いて動的平衡制御の分子機構の解析を進める。 ・外膜トランスロケータTOM複合体は, 可溶化条件により2量体が主要分子種となるがインタクトなミトコンドリア上では3量体が主要分子種と考えられる(in vivoでの架橋実験による)。そこで, よりマイルドな条件下でTOM複合体3量体を主要分子種として単離し, クライオ電子顕微鏡解析を行う。一方, 外膜でβバレル型膜タンパク質の外膜への組み込みにかかわるSAM複合体についても, 現在クライオ電子顕微鏡観察と単粒子解析が進んでいる(分解能4.3Å)。これについても, 構造解析の分解能向上を図るとともに, サブユニット構成の異なるSAM複合体, 基質を中間体として含むSAM複合体の構造解析を進める。 ・Msp1の機能解析については, ミトコンドリア, ER, サイトゾルの因子を総動員した品質管理システムの発見という画期的な成果を得ることができたが, ミトコンドリア外膜に誤配送されたタンパク質以外にMsp1の本来の基質があることが考えられる。この基質探索を進める。すでにMsp1過剰発現により, 様々なミトコンドリアタンパク質のインポートが低下することを見いだしているので, その理由を明らかにしたい。 ・オルガネラ間コンタクトについては, 新たに同定した新規ヒトミトコンドリア-ER結合因子の機能解析を行い, ヒトのミトコンドリア-ERコンタクトサイトの生理的意義の解明を目指す。またミトコンドリア-ER間以外のオルガネラコンタクト因子をsiRNAライブラリや, CRISPR-Cas9sgRNAライブラリを用いたゲノムワイドスクリーニングにより探索する。
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