Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, サイトゾルからミトコンドリアへのタンパク質の輸送, および膜間の脂質の輸送を中心に, ミトコンドリアが細胞内でいかに作られるかという根源的問題の分子機構を統合的に理解することをめざした。 まずタンパク質の交通については, 外膜でほとんどのミトコンドリアタンパク質の入り口として働くTOM複合体について, クライオ電顕観察と単粒子解析により, 3.8Åの分解能で精密構造決定に成功した。TOM複合体の全体構造は各サブユニット2個ずつから成る2量体で, 膜透過チャネルとなる円筒形のTom40同士の界面にTom22が2分子と脂質1分子が入り込んでいた。 Tom40のN端部分は, Tom40の円筒内部をサイトゾル(外)側から膜間部(内)側に向かって貫き, Tom5が膜間部側でこのN端部分をつなぎ止めていた。多様な前駆体タンパク質のうち、プレ配列を持つものはTom40同士の界面の側に出口があり, プレ配列を持たないものはTom40の2量体の外側に出口があった。このように, タンパク質の膜透過チャネル内に, プレ配列を持つ前駆体タンパク質と持たない前駆体タンパク質専用の通り道と出口を別々に用意し, 出口で待ち構える各輸送経路の下流の因子に前駆体タンパク質を受け渡すことで, 性質も機能も異なる1000種に及ぶ前駆体タンパク質の外膜透過を効率良く行っていることが明らかになった(Natureに発表)。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1について, Msp1はミトコンドリアに誤配送されたテイルアンカー(TA)膜タンパク質を外膜から引き抜いてERに送り, ERで分解するか, 配送のやり直しをするが決まることを見出した。Msp1はタンパク質配送のやり直し(校正)を行う因子であるという重要な概念発見となった(Mol. Cellに発表)。 リン脂質代謝の研究過程で, ホスファチジン酸の脱リン酸化酵素の欠損がトランスポゾン遺伝子の活性化を引き起こすことを見出した(FASEB J. 2020)。またミトコンドリアとER間を結合すERMES複合体のクラスター数が, ERストレス時に顕著に増加し, これらのオルガネラ間での脂質輸送を調節することで, ERストレスに対応することを見出した(投稿中)。さらに以前に開発したSplit-GFPによる任意のオルガネラコンタクトサイトを可視化する実験系を改善し, より定量的な実験系を構築した(投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タンパク質輸送については, タンパク質輸送体のTOM複合体の構造決定に成功し, 分泌系以外のオルガネラのタンパク質輸送装置としては世界で初めての精密構造決定となった。さらにその構造から, TOM複合体が基質別に下流因子を集める出口を使い分けることで, 1000種類以上に及ぶ基質の厳密でありながらも効率よい膜透過を実現していることが明らかになった。ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1については, 単に誤配送されたタンパク質の分解を担うのではなく, 誤配送されたタンパク質の配送やり直しを行う因子であることが分かり, 従来やり直しがないと考えられていたタンパク質の配送にも, DNA複製や翻訳のように「校正」に仕組みがあるという新規の概念発見となった。ERストレス時に起こる新規のUPR(Unfolded protein response)として, ミトコンドリアとERのコンタクトを介したリン脂質輸送が動的に制御されることを見出した。これは多くの知見が蓄積しているUPRのメカニズムに新たな視点を加える成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を開始して5年近くが経過した。昨年度はクライオ電顕の故障などにより研究に遅延が生じたが, 本年度は繰越した研究費を使って, 研究の遅れを取り戻すとともに, 最後の仕上げを行っているところである。現在, 外膜の第2のトランスロケータであるSAM複合体について, 反応サイクル中の異なるステージに対応する, 異なるサブユニット組成の精密構造決定に成功した。この構造に基づいて, SAM複合体がβバレル型膜タンパク質を外膜に組み込む分子機構を明らかにすることが出来た。この成果について論文投稿中であるが, 最終的な採択・発表へと仕上げを行いたい。 Msplについては, 蛍光顕微鏡のタイムラプス観察により, ミトコンドリアに誤配送されたタンパク質がERに移行する様子をリアルタイムで追跡する実験系を立ち上げ, 基質がミトコンドリアからERに移行する過程の詳細を解析する道を拓きつつある。ここでこの配送やり直しに関わる他の因子の関与, さらにはミトコンドリア-ER以外でも, 同様の配送やり直しが起こるかどうかを明らかにしていきたい。 オルガネラ間コンタクトについては, ERストレス時にERMESクラスターが解離する分子機構を明らかにしたい。またER-ミトコンドリア以外のミトコンドリア-液胞, 核膜-液胞間におけるコンタクトサイトもERストレス時に増大することを見い出してしているので, その分子機構や生理的意義を検討したい。
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