Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, サイトゾルからミトコンドリアへのタンパク質の輸送, および膜間の脂質の輸送を中心に, ミトコンドリアが細胞内でいかに作られるかという根源的問題の分子機構を統合的に理解することをめざした。 まずタンパク質の交通については, 外膜でβバレル型膜タンパク質の構造形成と外膜への組み込みを担うSAM複合体について, クライオ電顕観察と単粒子解析により, 2.8~3.2Åの分解能でサブユニット組成が異なる2種類((Sam50)2-Sam35-Sam37およびSam50-Mdm10-Sam35-Sam37)の複合体の精密構造決定に成功した。得られた構造から, 以下のような反応機構が明らかになった。Sam50a, Sam50b(便宜上2つのSam50をSam50aとSam50bと呼ぶ), Sam35, Sam37から成るSAM-dimer複合体のSam50bが基質となるβバレル型膜タンパク質前駆体と入れ替わる。基質がSAM複合体上でSam50bと同じようなバレル型構造をつくると, 今度は基質が別のサブユニットのβバレル型膜タンパク質であるMdm10と入れ替わることで, バレル型構造が完成した基質がSAM複合体から解離する。この後Mdm10が再びSam50bと入れ替わると反応サイクルの初期状態に戻ることになる。このように, SAM複合体はダイナミックに構成サブユニットを基質と入れ替えることで, 基質のβバレル型構造の形成を促すことが明らかになった(Natureに発表)。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1について, Msp1はミトコンドリアに誤配送されたテイルアンカー(TA)膜タンパク質を外膜から引き抜いてERに送り, ERで分解するか, 配送のやり直しをするが決まることを見出している。今回この解析をさらに進めて, 誤配送タンパク質としてPex15Δ30にGFPを付加した融合タンパク質を用い, ERでのユビキチン化が起こらないようにした条件下で発現することで分解を阻害した。次に, Pex15Δ30-GFPの発現を止めてMsp1の発現を誘導したときとしていないときについて, タイムラプス蛍光顕微鏡観察によりPex15Δ30-GFPのミトコンドリアからERへの移動をモニターする実験系を立ち上げた。この実験系により, Pex15Δ30-GFPがMsp1に依存してミトコンドリアからERに移行することが明らかになった。さらに, この過程に関わる新因子として, 新生TAタンパク質のER移行に関わるGETシステムを同定した(投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タンパク質輸送については, 前年度のタンパク質輸送体のTOM複合体の構造決定に続いて, βバレル型膜タンパク質の外膜へ組み込みを担うSAM複合体の構造決定に成功した。バレル型膜タンパク質の膜へ組み込みを担う装置としては細菌のBAM複合体の構造機能研究が進んでいたが, 真核生物の対応する装置の構造決定ははじめてのことである。さらにBAM複合体とSAM複合体は進化的に関連しているにもかかわらず, 基質のβバレル型構造形成の仕組みについては, 大きく異なることがわかり, 細胞生物学分野全般に大きな衝撃をもたらした。また, ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1については, 単に誤配送されたタンパク質の分解を担うのではなく, 誤配送されたタンパク質の配送やり直しを行う因子であることが分かり, 世界的にホットな研究対象となっているが, 今回は配送やり直しに関わるサイトゾルのシステムとして, GETシステムの関与を発見した。GETシステムはもともとERの新生膜タンパク質のER移行に関わることが知られていたが, 今回の発見は, GETシステムの基質の拡大につながるものであり, タンパク質の細胞内交通の制御機構を書き換える画期的な成果ということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を開始して5年が経過したところで, 本研究で利用している東大の共用施設のクライオ電子顕微鏡(EM)関連機器に故障があり, 測定に支障が生じた。さらにクライオEMの利用者の急速な増加により, 当初予定していたペースではクライオEM測定ができなくなった。このため研究費の繰越によって研究期間を延長した。その間クライオEMに関する論文報告が増加したおかげで, 界面活性剤やグリッド作成条件の最適化, 単粒子解析法の改善が可能となり, 測定のペースは落ちたものの, 効率の良い試料調製を行うことができ, 進んだEM観察と解析を行うことができるようになった。SAM複合体について残された重要な問題は, SAM複合体上で基質のβバレル型構造がどのように形成されるか, である。このことを解明するためには, SAM複合体と基質との複合体=反応中間体の構造解析が不可欠である。現在, SAM複合体については, 基質Tom40との反応中間体の生成に成功し, その精密構造決定と, 機能解析をおこなっているところである。 Msp1については, 蛍光顕微鏡のタイムラプス観察により, ミトコンドリアに誤配送されたタンパク質がERに移行する様子をリアルタイムで追跡する実験系を立ち上げ, 基質がミトコンドリアからERに移行する過程の詳細を解析する道ができた。この実験系を使って, 移行過程にGETシステムが関与することを見出すことができた。しかし, GETシステムを完全に不活化しても, Msp1の発現量を増加させれば, 誤配送基質はERに移行することも分かった。この, GETシステムに依存しないERへの移行のメカニズム解明が, 残る重要課題となっている。ここに, ミトコンドリア-ERコンタクトが関わるかどうかを明らかにしたい。
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