Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, サイトゾルからミトコンドリアへのタンパク質の輸送, および膜間の脂質の輸送を中心に, ミトコンドリアが細胞内でいかに作られるかという根源的問題の分子機構を統合的に理解することをめざしてきた。 タンパク質の交通については, ミトコンドリア外膜で小分子やタンパク質の通り道を提供するバレル型構造の膜タンパク質(βバレル型膜タンパク質)の構造形成と外膜への挿入を担う, 必須トランスロケータ, SAM複合体の構造情報取得をめざした。そして、SAM複合体の、構成サブユニット(タンパク質)が異なる二つの複合体について、高分解能立体構造を決定することに成功した(Natureに発表)。得られた構造に基づき, SAM複合体がプレイスホルダーとしての構成タンパク質(Sam50とMdm10)および基質のβバレルタンパク質を入れ替えながら、基質のバレル構造形成を促し、外膜に組み込む新規の仕組み(βバレルスイッチモデル)を明らかにすることができた。細菌の外膜にも進化的に近い組み込み装置(BAM複合体)があるが、それとは組込みの仕組みがかなり異なることもわかった。βバレル型膜タンパク質の構造形成と膜への組込みという、膜タンパク質生合成に関する基本原理の理解を大きく進める、インパクトのある結果となった。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の品質管理に関わるAAAタンパク質のMsp1について, Msp1はミトコンドリアに誤配送されたテイルアンカー(TA)膜タンパク質を外膜から引き抜いてERに送り, ERで分解するか, 配送のやり直しをするかが決まることを見出していた。今回さらに, これまで用いていたモデルタンパク質だけでなく, 本来ERに存在するFrt1でもミトコンドリアに誤配送されると, Msp1によるミトコンドリアからERへの再配送が起こることを見出した。 細胞内リン脂質輸送を解析する新しい実験系の構築を行い, 脂肪滴やペルオキシソームからミトコンドリアへのリン脂質輸送経路があることを見出した。またSplit-GFPを用いたオルガネラ間コンタクトサイトの可視化技術を改良し, オルガネラ間コンタクトサイトの動態を定量的に解析できる実験系の構築を行った。この実験系を駆使することで, 様々な細胞ストレスによって複数のオルガネラコンタクトサイトが動的に変化することを見出した。さらにミトコンドリア内で合成される2量体リン脂質, カルジオリピン合成の初期ステップに関与する酵素Tam41の立体構造を解明し, Tam41が脂質二重膜に部分的に埋まり, ホスファチジン酸をCDP-ジアシルグリセロールに変換する分子機構を明らかにした。
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