2015 Fiscal Year Annual Research Report
実用化へ向けた高解像度3Dカラー放射線イメージング技術の開拓
Project/Area Number |
15H05720
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
片岡 淳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90334507)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 低被ばく多色X線CT / コンプトンカメラ / MPPC / 3次元画像再構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
高解像度X線イメージングについては、単素子MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)を用いて低被ばく・多色X線CTの原理実証を行った。1mm角のフォトダイオード、APD(アバランシェ・フォトダイオード)と比較することで、従来CTの1/1000程度の被ばく量で同程度以上の画質が得られること、また4色エネルギー撮影でビームハードニングによるアーチファクトの軽減、さらには物質の同定のコントラスト比を大きく改善できることを実証した。ガンマ線イメージングでは、陽子線照射中のオンラインモニタの開発を進め、放医研サイクロトロン施設において全8回におよぶ70MeVのビーム実験、名古屋陽子線治療センターにおいて200MeVの照射実験を4回行った。従来用いられてきた対消滅ガンマ線(511keV)と陽子線量分布の定量比較を行い、また100keV以下の制動放射や炭素由来の4.4MeV即発ガンマ線が陽子線量モニタに最適であると結論した。平成28年度はこれら二つのエネルギーに特化した、イメージングシステムを開発する。医療用コンプトンカメラとして大きさ 5x5x10cm, 重さ580グラムの小型装置を開発し、従来性能を大きく凌駕する解像度 4.5°(FWHM; 662keV)を達成した。シリンジファントムの撮影では、解像度約3mm の3次元画像を得ることに成功した。今後はより複雑なファントムを用いたマルチカラー撮影、マウスを用いた臨床実験などを行う。最後に、環境計測については森林部などでの計測を容易とするため、コンプトンカメラの無線化をすすめ、画像データをリモートで制御することが初めて可能となった。森林部でも70メートルまでの動作を確認している。さらに、小型ドローンにサーベイメータを搭載し、広葉樹林・針葉樹林それぞれについて高度150 メートルまでの線量分布測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
多色X線CTについては、MPPC を用いたCTシステムの利点をいち早く看破し、低被ばく化に焦点を絞った集中的開発に踏み切ることができた。未だ単素子による原理実証の段階だが、既存CT装置の構成をほぼ踏襲し、線量だけを1/1000に低減するインパクトは計り知れない。開発初年度にエネルギー弁別したファントムの多色画像まで得られることは実に想定外であり、また関連企業との共同開発も進み、今後の開発を加速する上で堅固な地盤が形成された。医療用コンプトンカメラに関しても既存カメラのデータ処理ボードを改良することで、予定した開発期間を大幅に短縮することができた。解像度4.5°(FWHM)は半導体ベースのコンプトンカメラとほぼ同等以上であり、シンチレータの簡便性・高い感度を活かしつつ、優れた解像度と超軽量を両立した素晴らしい装置が完成した。陽子線モニタについてはビームタイムを十分に獲得でき、H-Ge検出器を用いたガンマ縁の一次元スキャン等、検証実験を精密に行うことができた。さらに、100keV以下の制動放射X線がオンライン・イメージングに極めて有用である事がわかり、新しい撮像検出器のアイデア創出へと繋がった。SPECT 用高精細カメラと併用できる部分も多く、効率的に研究を進める上でリソースの節約につながった。環境計測においては、ドローンを用いた放射線の高度測定は3年目からを予定していたが、既にサーベイメータを搭載した試験観測には成功している。また、画像データの無線送信にも成功している。ラズベリーパイなど、近年の小型PCの技術革新、また高性能ドローンが安価に普及した恩恵もあるが、当初技術的困難と思われた部分が次々と短時間で実現され、非常にスピーディーかつ効率の良い研究を進めることができた。本年度に関しては間違いなく、当初予定した計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2次元MPPCアレイ素子を用いた「多色X線CTモジュール」の開発を進める。今回提案する低被ばくCTにおいても、必要となるデータ処理レートは 100万 cps/mm2 程度と見込まれ、高速アナログLSIの開発が鍵となる。まずは 2mm角 4x4アレイを想定し、夏までにLSIの設計を終える。平成28年度内に第一版LSIの試作と性能評価を終了させたい。医療用コンプトンカメラについては平成28年度から分担者として大阪大学医学部核医学講座の畑澤教授、連携研究者として同・下瀬川教授を迎え、専門の臨床的見地からアドバイスを戴き、今後の開発や実験方法に反映させる。具体的には131I, 65ZnCl2, 85SrCl2 を用いた多色ファントム撮影を10月頃に大阪大学で予定している。陽子線モニタシステムについては MPPC と光電子増倍管を用いた (1) 制動放射X線イメージングシステム(2) MeV ガンマ線コンプトンカメラの開発を予定し、現在シミュレーションによるジオメトリの最適化を行っている。コンプトンカメラの開発に関しては、連携研究者に浜松ホトニクス社中央研究所の大須賀慎二氏を迎え、ハードウェアや画像アプリ開発に関する御協力をいただく。実験環境としては、平成27年度に引き続き、放医研・名古屋陽子線治療センタ・若狭湾エネルギーセンターのビームタイムを獲得しており、70MeV, 200MeVにおける各種ファントム(水、PMMT, CaOH)への照射実験を遂行する。ビーム照射中の検出器ダメージの影響を減らすため、MPPC を用いた各種カメラのほか、マルチアノード光電子増倍管(MAPMT)とアナログLSIを用いた新規システムの立ち上げを予定している。環境計測では、約2ヶ月おきに福島県浪江町の森林に調査同行し、定期的なドローンを用いた高度測定と、無線コンプトンカメラの性能改善に努める。
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Research Products
(17 results)