2015 Fiscal Year Annual Research Report
仏教学新知識基盤の構築―次世代人文学の先進的モデルの提示
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15H05725
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
下田 正弘 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50272448)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 基 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00272120)
Muller Albert 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (60265527)
苫米地 等流 一般財団法人人文情報学研究所, 仏典写本研究部門, 主席研究員 (60601680)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2019-03-31
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Keywords | 仏教学 / デジタル / 図書館 / 知識基盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
仏教学知識基盤の構築を通して人文学全体のデジタル研究基盤開発を目指す本研究の初年度は、4年にわたる研究の方向を立てることを目標に、(1)仏教学諸分野における方法論の検討と国際プロジェクトとの連携推進、(2)人文学・図書館学を視野に入れた国際プロジェクトとの連携推進という二本の柱を立てて事業を進めた。その結果、以下の通り最先端の知識基盤の構築のための重要な基礎が据えられた。 (1)について、大規模仏典書誌情報デジタル化を進めるColumbia大Paul Hacket教授とプロジェクト連携実現(7月6日=7.6以下同)、フランス極東学院Frederic Girard教授を交えた分担者連携研究者会議における仏典コード化方針検討(10.24)、Heidelberg大Patrick McAllister研究員を招きSARITプロジェクトとの連携準備(12.8)、Sydney大、Washington大のREADプロジェクトとのワークショップと研究連携の締結(12.21)、さらにUC Berkeleyにおける「大乗涅槃経」シンポジウム共催(1.7-8)、科研基盤(B)「密教思想と他の仏教思想との関係性」(代表・久間泰賢)との合同研究会開催(2.19)を通し、仏典のコード化検討をなした。 (2)について、Oxford大Bodleian Library・Pip Wilcox氏による英国シェークスピア写本プロジェクトに関する講演会・研究会の開催(9.4)、米国の世界最大のデジタル図書館HathiTrustを推進するStephan Dawnie Illinoi大教授、国立国会図書館、国文学研究資料館、東大図書館の代表を交えた知識デジタル化に向けたシンポジウム「HathiTrustとデジタルアーカイブの未来」の開催を通し、日本のデジタル知識基盤構築の現状認識と将来の進路を見定めた(1.25)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、あらかじめ入念な準備をしていたことが奏功して、予算が利用可能となった7月当初より本格的に活動を開始し、予算執行の最終期の2月下旬まで効果的に活動をつづけることができた。これを通して、現在進行中の世界有数のプロジェクトとの連携を図ることに成功、国際的に最先端をゆく日本発の人文学プロジェクトの基盤を構築するための礎石を置くことができた。 上述の【研究実績の概要】に記した内容は、本科研から予算を投じたものに限っているが、このほかにブリティッシュ・コロンビア大学で進められる北米、欧州、中国の幅広い研究者によるカナダ社会人文学術会議(SSHRC)最大の新規事業「マルチメディア資料と分野横断的視野からの東アジア宗教研究」、台湾国立大学が中心となる東アジア・デジタルヒューマニティーズ会議、日本学術会議の歴史部会で進める東洋史分野におけるデジタル化事業、日本の人文学最大のデジタル事業となる国文学研究資料館の歴史的古典籍のデジタル化事業などの諸事業と緊密な連携を実現しており、本研究はすでに仏教学を超え、日本の人文学全体のデジタル基盤構築に向け重要な役割を果たす段階に至っている。 ただ、多言語、多文化、長期の歴史的蓄積を有する仏教学の諸方法論を精査し、個別のテクストにおけるコード化をいかに適切に実現するかについては、いま検討を開始したばかりであり、今後、本格的な課題として進めていかなければならない。加えて東アジア文化の基盤となる漢字の国と地域を越えた共通コード化について、学術界から積極的に国際標準化機構ISOに提言し実現してゆく課題についても、今後日本が一定のイニシャティヴを取りつつ本格的に進める体制を整えなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
学術的に信頼性の高い国際プロジェクトと連携を図り、最高度の知識ネットワークをデジタル媒体において構築することは、激変する国際学術環境のなかで、一つの学問分野全体が、先導的役割を果たしつつ、生き残ってゆくために枢要な課題である。これを実現するためには、すでに完成期に至ったプロジェクトと同一ネットワークを構築するための共存構造を創出するとともに、いまだ萌芽期にあるプロジェクトを支援育成してこのネットワークへと導入することが必要なる。この課題は、さらに下位の要素に還元すれば、個別専門知のもつ内実の分析と、分析の結果が反映された知の異質性が共存しうる構造を案出するというテーマになる。これは実は、Text Encoding Initiative (TEI) が三十年来模索をしてきた課題に一致する。この問題現状を踏まえ、上述した本研究の現状を前提とするなら、残り3年における研究の方向は、自ずと以下のものとなる。 第一に、多言語、多文化、長期歴史の蓄積をもつ仏教の厖大なテクストを、それに向き合う研究者の方法的態度とともに分析し、デジタル媒体上に明示的に転記しうる事例を可能な限り複数提示すること、換言すれば、TEI-Guidelinesに仏教知識の豊穣な成果を反映させて改訂することであり、第二に、萌芽期にある国内外の重要プロジェクト(University of British Columbia, College de France, Leiden University, etc.)支援を進めること、第三に、国際標準化機構ISO/ IRG漢字委員会に学術会から漢字登録をする仕組みをより広範囲に整備すること、第四に、仏教学以外の関連分野との提携をさらに積極的に推進することである。これを実現するために、次年度以降、各専門を担う分担者を大幅に増員し、効果的な分業体制をつくりあげる予定である。
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Research Products
(25 results)