2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H05746
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金子 邦彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30177513)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古澤 力 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, チームリーダー (00372631)
若本 祐一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30517884)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 生命現象の物理 / 進化 / マクロ状態論 / 1細胞計測 / ゆらぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
課題①大腸菌1細胞計測系を用いた表現型揺らぎに基づく環境適応ダイナミクスの解析 1細胞計測によって得られる細胞系統樹の集合から、任意の計測可能な細胞表現型のゆらぎに対する「適応度地形」および「選択強度」を抽出する解析手法を確立した(Nozoeら, PLoS Genetics 2017)。これにより、適応進化過程の集団増殖率の増加に対する、細胞の内因的成長率の増加と選択強度の増加の寄与の定量評価が初めて可能になった。 課題②様々な環境下での大腸菌の進化実験を用いた表現型・遺伝子型の網羅的定量 独自に開発したラボオートメーションを用いた進化実験システムを用い、酸・抗生物質・重金属など95種類のストレス環境を付与した環境下での30日間の大腸菌進化実験を完了し、そのうち87種類のストレス環境において耐性能の有意な上昇が見られた。また、一つのストレス環境への耐性獲得が、他のストレス環境への耐性能をどのように変化させるかを、約2000通りのストレス環境の組み合わせについて定量した。結果として、およそ25%の組み合わせにおいて有意な耐性能の変化が見出され、耐性メカニズム間の相互作用ネットワークの存在が示唆された。 課題③細胞シミュレーションと理論解析を用いた細胞状態理論の構築 多成分反応ダイナミクスを持つ細胞モデルの進化シミュレーションを行った。その結果、表現型の変化が、進化より低次元の状態空間に拘束されることを見出した。これを、適応度に関わる表現型の頑健性と進化方向への可塑性から低次元方向のみ吸引が弱いという理論で説明した。この理論は実験での線形適応関係を説明する。また可塑性と頑健性という一見相反する性質が周期と位相という異なる変数に着目すると互恵関係を持つことを定式化した(Hatakeyamaら.PRL 2015,PRE)。また多様な成分を維持し成長する状態の出現をプロト細胞モデルで示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の背景には、細胞が多成分を持つけれど、その性質を少数の変数で記述でき、多数分子があっても少数マクロ変数で記述できた熱力学のような体系が可能になる、という期待がある。そこで細胞の多次元反応モデルの進化シミュレーションを行って、それをサポートする結果を得た。これに対して、可塑性と頑健性に着目した理論を展開した。 一方でそれを支持する大腸菌の進化実験も着実に進めている。古澤グループでは、自ら開発した自動化システムを用い、多数のストレス、抗生物質への大腸菌の進化という世界に類を見ない大規模な実験を進め、その表現型と遺伝子型の網羅的解析から、進化ダイナミクスにおける低次元性が成り立つという予備的結果を得つつある。以上の結果は我々の期待が十二分に実験やシミュレーションで確証される可能性が高いことを示しており、また、その理論的基盤もえられつつある。これは、本計画の着実な進行を意味している。 次に、細胞の状態論を進める上では1細胞計測が欠かせない。若本グループではその実験技術を発展させるとともに、1細胞計測と進化を結びつける理論の整備も行った。特に本年度はそれから得られる細胞系統樹の集合から、任意の計測可能な細胞表現型のゆらぎに対する「適応度地形」を抽出する解析手法を確立したがこれは、今後の適応進化過程の集団増殖率の増加への定量評価を行う上で必要な結果であり、本計画の基盤となる。 最後に生物の状態論を確立する上では、生物の可塑性と頑健性が基盤となる概念である。前者は変わりやすさ、後者は変わりにくさなので一見相反する性質にみえる。生物時計の理論によって、これらが位相、周期という共役変数に着目することで(位相の可塑性と周期の頑健性という形で)互恵関係を持つことが定式化できた。今後、これらの一般性を理解すれば生物一般の基本法則となる。これも、今後の研究の基礎となる重要な成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
課題①大腸菌1細胞計測系を用いた表現型揺らぎに基づく環境適応ダイナミクスの解析 分裂酵母を用いた長期1細胞計測を行い、定常成長条件における分裂率と死亡率の関係を明らかにする。また、細胞のラマンスペクトルを利用して非侵襲的に細胞内の網羅的発現状態を同定する技術を確立する。 課題②様々な環境下での大腸菌の進化実験を用いた表現型・遺伝子型の網羅的定量 28年度までに完了した大腸菌進化実験で取得したストレス耐性株について、マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析と超並列シーケンサを用いたゲノム変異解析を行う。さらに、それら表現型と遺伝子型の大規模データに基づいて、適応進化のダイナミクスを記述するマクロ状態量の抽出を試みる。 課題③細胞シミュレーションと理論解析を用いた細胞状態理論の構築 本年度構築した理論を進化的変化にもあてはめ、環境による表現型変化と進化による変化は全成分に対して大域的比例関係が成り立ち、後者は前者を打ち消す方向に起こることを示し、また揺らぎとの関係も議論する。次に微生物は一般に栄養が不足すると指数関数的成長相か静止期(Stationary Phase)へと転移することに注目し、その理論を構築し、実験と比較する。また分子と細胞の階層をまたがる進化理論を構築する。
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Research Products
(45 results)