2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05756
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村上 正浩 京都大学, 工学研究科, 教授 (20174279)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 智也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10378804)
石田 直樹 京都大学, 工学研究科, 講師 (70512755)
増田 侑亮 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (20822307)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 分子変換 / 光 / 触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機合成化学には医薬品や高機能材料に至るまで、社会が必要とする様々な有機化合物を合成する効率的な手法を提供することが求められる。この目標に向け、入手容易な化合物を直截変換する新しい反応の開発は重要な研究課題である。本研究では入手容易な原料を直截変換する反応の開発を目指して、光と金属の特性に着目した検討を行っている。当該年度の代表的な成果は以下の通りである。 1. ベンゾイル基を光配向基とする位置選択的な炭素―水素結合アシル化反応 炭素―水素結合を炭素―炭素結合へと直接変換する反応は炭素骨格の効率的な構築法を提供する。有機化合物に多数存在する炭素―水素結合の特定の位置だけを選択的に変換することは難しく、この制御が課題である。本研究ではベンゾイル基が光の作用によって近接した炭素―水素結合を位置選択的に切断することを利用して、入手の容易な芳香族ケトンにアシル基を位置選択的に導入する反応を開発した。 2.アルケンの移動を用いるアルデヒドのジアステレオ選択的アリル化 連続する不斉中心を立体選択的に構築することは現代の有機合成化学における重要な課題である。置換アリルホウ素化合物はアルデヒドとジアステレオ選択的に反応してホモアリルアルコールを与えることが知られている。合成的に魅力的であるが、置換アリルホウ素化合物の合成は容易でない。置換アリルホウ素化合物の新しい発生法が望まれている。今年度は、アルキンから出発して、遷移金属触媒を用いたジホウ素化、アルケン部位の移動を経てホウ素部位を2つ持つアリルホウ素化合物を発生させて、アルデヒドに付加する手法を開発した。これにより、γ―ホウ素置換ホモアリルアルコールを入手の容易な原料からジアステレオ選択的に合成できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)非極性σ結合の活性化を起点とする直截的分子変換 入手容易な原料を活用する有機合成に向けて、炭素-炭素結合、炭素―水素結合の切断を契機とする反応を多数開発した。例えば、飽和炭化水素の炭素-水素結合を切断して二酸化炭素に付加する反応を開発した。この成果は現在論文投稿の準備中であり、さらに他のカルボニル化合物との反応にも展開している。また、当初の想定にはなかったが、検討の途中で得られた知見に着想を得て、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルを合成する簡便な手法を開発した。光のエネルギーを活用して、入手の容易なケトンから合成した1,2-ジオールの炭素-炭素結合の切断が起点となる反応である。この知見は触媒反応にも応用できると期待され、現在これを利用した新しい合成反応に着手している。このほか、リグニンモデル分子の炭素-炭素結合開裂反応、オレフィンの炭素-炭素結合開裂を起点とするピリジンのアルキル化反応、先に述べたベンゾイル基を光配向基とする位置選択的な炭素―水素結合アシル化反応なども開発した。 (2)アルキンを起点とする直截的ワンポット多官能基化法 入手の容易なアルキンを原料とした連続不斉中心の構築法を発展させた。具体的には末端アルキンからγ―ホウ素置換ホモアリルアルコールをジアステレオ選択的に合成する手法を開発した。ホウ素置換基は多様な変換反応が知られており、有用なビルディングブロックである。現在は、この成果を展開してδ―ホウ素置換ホモアリルアルコールのジアステレオ選択的合成法に取り組んでいる。またアルキンより入手容易なアルケンを起点とする新しい炭素―炭素結合形成反応も新たに見出し、その展開検討を進行中である。 以上のように入手容易な原料を活用する有機合成に資する多数の反応を開発できており、今後の展開も期待できることから、「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的にはこれまでの方針を維持・発展する形で、光と金属触媒がもつ特性に立脚した(1)非極性σ結合の活性化を起点とする直截的分子変換と(2)アルキンを起点とする直截的ワンポット多官能基化法の開発検討を行う。具体的にはジオールの炭素―炭素σ結合の電子を還元剤とする有機合成手法の開拓や、末端アルキンを出発物質とするδ―ホウ素置換ホモアリルアルコールの立体選択的合成を行う。 すでにこれらの反応に関して予備的検討を行い、ある程度進行することを見出している。今後は①溶媒や触媒の配位子などの反応条件検討、②反応機構の解明を目的とした量論反応や量子化学計算、③有用物質や新規物質の合成検討を行う。 また、以上のような合理的戦略に基づいて着実に研究を遂行するとともに、この過程を通して斬新な反応の発見を目指したい。合成実験では、予想していた生成物のみならず、想定外の生成物が得られることがままある。これらの新規性・有用性についても随時検証する。また、副生成物の生成機構も慎重に吟味する。このような、想定の外にあった事象も検証することで、新しい合成化学の可能性を模索したい。
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Research Products
(39 results)