2015 Fiscal Year Annual Research Report
AIDのRNA編集機構による抗体の多様化とゲノム不安定化の制御機構
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15H05784
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
本庶 佑 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80090504)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2019-03-31
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Keywords | DNA切断 / 組換え / 獲得免疫 / 免疫記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
Top1との免疫共沈法によりTop1に結合する多くの制御タンパク質を同定し、分類した結果、ヒストン修飾、mRNAプロセシング、転写に関与するものの他にクロマチンリモデリング因子が同定された。特に、以前に免疫グロブリン遺伝子のDNA切断に必要と同定されたFACT複合体、ATP依存性クロマチン変換酵素SMARCA4および転写活性化マーカーであるトリメチルH3K4はすべて、機能的に重要なTop1との相互作用分子だった。すなわち、SMARCA4はTop1の免疫グロブリン遺伝子座へのリクルートを促進し、一方、FACT複合体はTop1をH3K4me3のヒストン修飾に引き寄せるアダプターとして働き、Top1によるDNA切断を可能にすることを発見した。 この成果をさらに深め、AIDによるDNA切断とクラススイッチ組換え(CSR)に特異的なクロマチン環境を明らかにするため、S領域中にLexA結合配列を導入したCH12細胞株からLexAタンパク質を用いた免疫沈降によりAID依存的にS領域に集積するタンパク質を複数同定した。我々は今までにDNA切断端処理過程を、DNA切断端に共有結合したTop1の除去に関わる反応、切断端を二重鎖盲端又は短い切断端に切り揃える反応、二重鎖を2つのS領域の間でたぐり寄せる反応に別れることを明らかにしたが、得られた因子群の各ステップへの関与を解析中である。 また、AIDの単量体は主にhnRNP Kと共局在し、二量体はhnRNP Lと共局在することをグリセロール密度勾配法により証明した。AIDのC末端変異体が二量体形成能を欠くことに加え、AIDのN末端変異体のうち、体細胞変異が損なわれるがCSR能が保たれたタイプの変異体は二量体/多量体分画に分布することから、AIDの二量体/多量体形成による構造変換がCSRの組換え段階に関連することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既にTop1と相互作用するヒストン関連因子の同定について成果をあげた他、AIDの二量体・多量体形成能とクラススイッチ組換え能との関連についても新規知見を得ることができた。これに関連し、現在、連携研究者岩田がAID単量体の結晶化に成功し、その構造解析の結果が待たれる。この成果はAID阻害剤の開発という新たな展望につながるものである。また、FACT複合体のクロマチン集積部位について、ゲノムワイドレベルでの解析の予備実験を行い、クロマチン環境とAID誘導性DNA切断機構の解析を継続している。 AIDのC末端変異は、ヒト疾患では常染色体優性遺伝を示すが、これはC末端が二量体形成を果たすことでhnRNP Lを含む共役因子を取り込まれるという仮説に合致し、C末端変異体のドミナントネガティブ効果を示唆している。現在、その変異体のノックイン細胞を樹立し、ドミナントネガティブ効果を始めとする分子機構の解析を進めている。 AIDがTop1を介したDNA切断を行う制御に必要なRNA編集ターゲットを解析するため、AID-hnRNP K連続免疫沈降法を開発した。hnRNP KへのCRISPR/CAS9によるタグ挿入に成功し、RNA解析の段階に入ったため、ターゲット同定は目前である。hnRNP Lを用いたクラススイッチ組換えに必須のmRNA編集ターゲット解析も、同様にRNA解析の段階にある。Top1 mRNAの制御機構については、3'UTR部分の貢献を示唆する知見があったものの、実際の3'UTRノックアウト細胞においてAID依存性のDNA切断は失われないという極めて重大な知見を得て、あらたにコード領域に焦点を移し解析を開始した。また、miRNA-92aがAID誘導性のCSRと体細胞変異に関わる知見を得ており、その詳細な解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
AIDとhnRNP Kを連続して免疫沈降するためにhnRNP Kにタグを挿入した細胞株を完成し、連続免疫沈降されたRNA群のシーケンシングの段階に入った。これによりAIDの編集ターゲットを同定する。同定されるターゲットはAIDの複合体解析、結晶構造解析をさらに加速するものと思われる。ターゲットRNAの機能と分子メカニズムを明らかにする。 Top1がDNA切断時に形成する共有結合を阻害するような、新たな分子機構によるTop1阻害剤がクラススイッチを阻害する予備的な結果を得ており、今後これのAID誘導性のDNA切断に及ぼす影響を解析を遂行しTop1が免疫グロブリン遺伝子切断責任分子であることに確証を追加する。 申請者らはH3K4me3に加えてFACTが抗体遺伝子座に特異的に蓄積し、DNA切断に必要であることを示している。従って、クロマチン上でのFACTの集積をゲノムワイドに確認するためにChIP-Sec法を用いてFACTの集積の分布を解明する。その結果をTop1のChIP-Sec法によるTop1の集積とビオチン化me3-psoralenを用いたNon-Bのゲノムワイド分布と総合し検討することで抗体遺伝子特異性が決定されるという仮説を検証し、ミスターゲットとして知られるmyc等のオンコジーンに対するAID によるDNA切断の分子メカニズムが同様の仕組みか否かを改めて検証する。 Top1 mRNA 3'UTRのmiRNA結合サイトの欠失細胞を用いてTop1 coding領域へのmiRNA結合について改めてAgo2抗体を用いた免疫沈降法やRNA-IP法を行い、miRNA結合部位の解析を完成する。今までにmiR-92aがAID依存性のDNA切断に関わる傍証を得ているが、さらにTop1mRNAへの集積について解析し、AIDによるRNA編集との関連について解析を進行させる。
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Research Products
(8 results)