2018 Fiscal Year Annual Research Report
Achievement of highly accurate diagnosis of early pancreatic cancer in Japanese patients through a comprehensive/integrated approach
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15H05791
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森 正樹 九州大学, 医学研究院, 教授 (70190999)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土岐 祐一郎 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20291445)
永野 浩昭 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10294050)
石井 秀始 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
三森 功士 九州大学, 大学病院, 教授 (50322748)
杉本 昌弘 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任教授 (30458963)
落谷 孝広 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, プロジェクトリーダー (60192530)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 早期膵癌 / バイオマーカー / 環境因子 / 遺伝子的多型因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵癌の治療成績は極めて不良で、現時点での予後改善の方策は癌の早期発見である。しかし早期(ステージⅠ)膵癌の状態で発見される症例は極めて少なく、臨床検体を得難いという問題があるため、早期膵癌を対象とした研究を行うことは困難であった。本研究では、オールジャパン体制で戦略的・体系的に早期膵癌症例を30例以上集積し高精度に解析することを目標とした。バイオマーカー探索研究では、腫瘍関連因子(T)である末梢血・唾液中のバイオマーカー(循環・分泌されるmicroRNAとExosome、分岐鎖アミノ酸 等の生理活性物質)の同定が重要であることは言うまでもないが、日常生活環境からみたハイリスク因子(環境因子)と遺伝子多型からみたハイリスク因子(遺伝子的多型因子)を総合して俯瞰的に観察することが極めて重要である。そこで本研究では、膵癌症例を扱う全国のhigh volume centerからの早期膵癌症例を収集し、臨床検体(血液、唾液、尿)、生活習慣アンケート、ゲノム情報(単核球)を高精度に収集することを目的の第一段階とした。 これまでの症例集積状況は、2019年3月までに255症例のステージⅠ膵癌の可能性のある症例(対象候補症例)に対して検体回収に出動した。その結果、病理学的に通常型膵癌でありしかもステージⅠAであることが確定した症例が累計で51例であった。これまでに回収した症例の中には、本中間報告書作成時点で病理学的診断が完了していない症例もあるため、実際にはステージⅠA膵癌症例数および小型膵癌症例はさらに多い見込みである。 本年度は、総研究期間の前半に収集した症例検体を用いて、唾液のメタボローム解析、血液中のマイクロRNA解析等を実施した。その結果、切除前の検体では高値で切除後には低下する代謝産物や切除後に上昇するマイクロRNA等の複数のマーカー候補を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
症例集積開始からの累計でステージⅠA膵癌が既に51例集積され、症例集積は当初の予定通りまたはそれ以上に順調に進んでいると判断する。 本年度には、収集した検体のうち唾液を用いて様々な解析を行った。唾液は体調や食餌によりその中に含有される物質の濃度が大きく変化するため、解析結果を症例間/検体間で比較をするには、厳密なノーマライズが必要である。本年度は唾液中にユビキタスに存在する物質をノーマライズのための標準物質として使用して補正したところ、約40個の代謝産物が術後に低下していることが明らかになった。これらの物質は、特に膵癌患者の術前には健常人の3倍~5倍程度上昇している代謝物も含まれていた。 一方、血清中のマイクロRNAを網羅的に解析し、膵癌に特異的なマイクロRNAの同定を行った。使用した解析法では2565種のマイクロRNAを同時に解析可能で、そのうち高シグナルプローブを示したものは255 種であった。さらにこれらのうち、手術前後の血中マイクロRNAの変動量に基づいて、2群間判別精度をleave-one-out cross-validation法により算出し、2群間で変動に差のあるマイクロRNAとして5個のマイクロRNAを同定した。これらの5つの候補を個別に見ると、ステージ0、1の早期膵癌でも有意差を持って切除前後に変化しているものも含まれていた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向かって症例数はさらに増加しており、これまでに同定された候補代謝物およびマイクロRNAを視野に入れながらdiscovery phaseおよびvalidation phaseの二段階で臨床的有用性について評価していく予定としている。さらに早期膵癌患者から採取した尿も収集が進んでおり、尿中に含まれる物質(代謝産物、ニオイ物質など)を検体とした検討も進める予定としている。これらの検体の臨床的意義を明らかにするためには健常人の検体が必要であり、2018年度中に必要十分な健常人検体を収集したので、これらをコントロールとして使用する予定である。 また、当初の計画に則り、日常生活環境からみたハイリスク因子(環境因子)と遺伝子多型からみたハイリスク因子(遺伝子的多型因子)を総合して俯瞰的に解析する予定である。この解析のために末梢血単核球も収集しており、DNAの解析も開始する。 これまで単に早期膵癌と把握されながら詳細が不明であった「ステージ1症例」や「ステージ1をわずかに越しているが2cm以下の症例」の区別や、「通常型膵癌」と「膵癌であるが組織型が少々異なる症例」などの多彩な病態が分子レベルで明らかになってきている。できるだけ早期に膵癌を見つけることが望ましいことは言うまでもないが、実臨床上で必要可能な感度、特異度、コストを兼ね備えた早期膵癌検出法の確立に向け、他の中大規模研究との融合、バンク化、継続的な調査などの道筋を模索する予定である。
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