2015 Fiscal Year Annual Research Report
中央アジアの移民労働によるグローカリゼーションとムスリム住民のジェンダーの変化
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15H05983
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
菊田 悠 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 非常勤研究員 (30431349)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 中央アジア / ジェンダー / 労働移民 / ロシア / 社会変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、中央アジアを中心にしつつ労働移民と社会変化に関する文献調査をおこなった。この成果は論文「労働移民の社会的影響:移動と送金がもたらす変化」に結実した。その内容は、まずソ連崩壊後の中央アジア5カ国における労働移民の発生状況を時系列に沿って概観した。これにより、ソ連崩壊後の労働移民の発生は、2大資源国カザフスタンとトルクメニスタン以外の中央アジアの3カ国に偏っている上、その大多数はロシアで就労しており、これらの国々がソ連邦の中心であったロシアに独立後も経済的に大きく依存していることが明らかとなった。続いて、中央アジア発の労働移民の主要な行き先であるロシアにおいて、彼らがいかに働き、どのような扱いを受けてきたのかを概観した。ここで注目すべきは、2015年から、高度な技能を持つ専門家を除き、ロシアでの就労を希望する者への管理強化が大幅に進んだことで、これによって今後ユーラシア経済連合に所属するクルグズと、所属しないウズベキスタンおよびタジキスタンからの労働移民の待遇は大きく異なることとなり、後者の大幅な減少が予測される。 本論文では、ロシアや外国での労働経験が、個々の移民にどのような意識や行動の変化をもたらしうるのかについても検討した。さらに労働移民を送り出す側の社会の変化にも焦点を当て、送金が多くの人々の生活を安定させるばかりでなく、人生儀礼において蕩尽されやすいこと、消費主義や新たなライフスタイルをもたらしつつあることを述べた。また、大量の男性を中心とした労働移民という現象が既存のジェンダーを変化させる可能性についても明らかにした。一連の作業により現地調査前の考察は非常に充実したものとなったので、その上で次年度には本格的な現地調査を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は、複数地域の文化人類学的調査を目指しているが、本年度は時間的制約によって文献調査にとどまった。 しかしこの文献調査は大変充実し、現地調査に入る前の準備が十分に整った。 さらに、この文献調査の成果論文も刊行プロセスに入っており、研究全体としては順調に進展していると評価できる。 なお、計画外の事態としては、調査対象地のうち1カ国で調査ビザの取得が難航していることであるが、この点については事前にある程度予測していたため、当該地域から自研究機関へ留学中の研究者の協力を得て、代理によるアンケート調査等に切り替えつつあり、計画の遂行上は問題ないと考えている。 さらに成果の国際的発信という面では、当該研究のテーマに深く係る英語論文を、中央アジア地域研究において大きなインパクトを持つ学術雑誌に掲載したことは特筆すべきであり、計画の進展に寄与していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、文献調査によって導き出された仮説を、現地調査によって検証・修正し、分析していく作業が必要となる。 予定では平成28年度初めに移民労働の送り出し社会について1ヶ月弱の現地調査を行い、移民労働がもたらしたさまざまな社会変化に関する仮説の検証や修正、補足を行う。具体的には、移民労働に伴う人、モノの移動とジェンダーの変化に関するアンケート調査を、地域コミュニティの長、地域の女性委員会リーダー、その他に年齢(年金受給者層・壮年層・若年層)と性別ごとに十数人のムスリム被験者を選び、実施する。移民先から戻ってきている人もできるだけ多く対象に加える。対面記入が望ましい。 さらに上記アンケートの回答者の中から、詳しい話が聞けそうな20人程度に30分~1時間程度のインタビュー調査を行う。加えて市役所等の行政の現場、教育機関、主要産業の現場、バザール、農作業の現場、育児や家事の場などで性別分業がどのように行われているか観察する。できれば映像も撮る。 続いて年度中期に中央アジアからの主要な移民労働先であるロシアにおける移民のコミュニティーにおいて現地調査をおこない、ジェンダーを中心とした移民の行動や規範に、移民経験がどのような影響を与えつつあるかの現場を分析する。これにより、移民労働の送り出し側と受け入れ側の双方の視点に立った研究の展開が期待できる。
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Research Products
(5 results)