2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国思想のグローバル化--18世紀在華イエズス会士の報告を中心に
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15H06111
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新居 洋子 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (10757280)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 東西交渉史 / 在華イエズス会士 / 満洲語 / 旗人 / 清朝宮廷 / 18世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16~18世紀における中国思想のヨーロッパへの伝播を中心に、中国思想のグローバル化について解明するものである。とくに中国思想に関する広範かつ精密な情報がヨーロッパへ伝わった18世紀に焦点をあて、中国とヨーロッパとの思想交流の媒介者として最も主要な役割を担った在華イエズス会士に注目する。そのため今年度は、とくに18世紀在華イエズス会士に深く関わるヨーロッパ側、中国側双方の史料の調査に重点を置いた。フランス国立図書館写本室では、ラテン語‐漢語‐満洲語辞書(または文例集)の写本を発見した。その記述から、18世紀後半に完成したものと考えられる。清朝宮廷に仕え、北京に居住した在華イエズス会士は満洲語に習熟し、漢籍の読解にも満訳本を利用しており、彼らの中国思想の解釈に満洲語がいかなる役割を果たしたのかは重要な問題である。報告者はこれまで、18世紀在華イエズス会士が編んだフランス語あるいはラテン語‐満洲語辞書が、おもに当時清朝で編纂された官製満漢辞書などを底本としたことを解明してきたが、今回発見した史料では漢語訳が白話で書かれ、天主教の教理に関する文例が多いことから、イエズス会士が独自に作成した可能性が高い。今後この史料の分析を進め、当時在華イエズス会士が実際に使用した満洲語への接近を図っていきたい。さらに台湾中央研究院傅斯年図書館および故宮博物院図書文献館では、北京四堂(内城にあった東西南北四つのカトリック教会)のうち北堂在住のフランス出身在華イエズス会士たちと交流があったと考えられる、ある満洲旗人父子に関する漢文および満文トウ案を多数発見した。上記のごとく、在華イエズス会士の中国思想解釈には満洲語が大きな役割を果たしたと推測されるが、今回の史料の発見によって、天主教に親近感を持つ満洲旗人との接触が、北京在住の在華イエズス会士に何らかの思想的影響を与えていた可能性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度1月(平成28年1月)に異動があったため、年度後半に予定していた北京の中国第一歴史トウ案館および北京大学図書室での調査を行うことができなかった。しかしフランス国立図書館写本室、台湾中央研究院傅斯年図書館および故宮博物院図書文献館における史料調査では、本研究にとって決定的な役割を果たし得る史料を多数発見し、予想を上回る成果を挙げることができた。これらの史料について詳しく調査したのは、世界的にみて本研究が最初である。これらの成果については、東方学会平成27年度秋季学術大会、中央研究院明清研究国際学術研討会など大規模な国際学会で発表を行ったほか、平成28年6月に国書刊行会から刊行予定の、後藤末雄『乾隆帝伝』(復刊)の校注と解説にも反映させることができた。そのため研究全体としては順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を、これまで蓄積してきた成果との連関を含めて総合的に分析し、在華イエズス会士による中国思想のヨーロッパへの伝播という観点からみた中国思想のグローバル化の内容、意義、限界について明らかにする。具体的には以下(1)~(3)の計画に従って推進する。 (1)史料分析、史料調査の継続。本年度フランス国立図書館、台湾中央研究院および故宮博物院で調査したラテン語‐漢語‐満洲語辞書の写本、および満洲旗人父子に関する漢文、満文トウ案を中心に、分析を進める。さらに、平成27年度前半(本研究の開始前)に北京大学図書室およびフランス国立図書館にて基礎調査を行ったが、その際発見した『華夷訳語』ラテン語版(刊本)と、いわゆる康熙遺詔のフランス語訳注(写本)について、本格的な調査を行う。『華夷訳語』ラテン語版と康熙遺詔フランス語訳注はいずれも、18世紀のフランス出身在華イエズス会士が決定的な役割を果たして完成されたものと考えられ、彼らによる中国思想の翻訳が清朝の統治からいかなる影響を受けていたのか、明らかにする上で重要な史料である。 (2)全史料に対する総合的分析。上記のごとく、本年度前半と後半に北京、フランス、台湾で行った調査では、互いに深く連関する史料を見出すことができた。これら全ての史料を総合的な観点から分析し、18世紀の在華イエズス会士が行った中国思想翻訳について、その特質、およびヨーロッパへの伝播に果たした役割と限界を明らかにする。 (3)個別および総合的成果の発表。平成28年度には、東アジア文化交渉学会第8回大会、東方学会秋季学術大会での発表が決定しており、さらに報告者が寄稿する台湾中央研究院と東洋文化研究所との合同論文集、秋に出版予定の『アジア遊学』も刊行が決定している。また平成29年度刊行を目指して準備中の単著(博士論文を大幅に加筆修正)にも、本研究の総合的成果を反映させる予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] 中国最初の西洋音楽理論書2015
Author(s)
新居洋子
Organizer
東方学会平成27年度秋季学術大会
Place of Presentation
日本教育会館8階会議室(東京都千代田区)
Year and Date
2015-11-06 – 2015-11-06
Int'l Joint Research
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