2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H06134
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北之園 拓 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50755981)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 水 / 反応場 / 触媒 / 溶媒 / 有機合成 / 不斉 / 界面活性剤 / 不溶 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規な疎水場構築法の開発に取り組み、複数の手法で優れた触媒活性を得る事に成功した。例えば、触媒表面の剛直性を高選択的変換に活かすことを企図し、ともに難溶性の銅(II)塩とOH基を有する不斉配位子から高い難溶性を有する錯体を調製した。配位子内OH基による軌道混成を利用したホウ素含有試薬(Si―B結合)の活性化を試みたところ、種々の電子不足オレフィンに対して良好な収率と80% eeを超える選択性を確認し、不溶性というファクターが選択性に大きく影響を与えていることを示した。触媒、両基質すべてが不溶である場合に最も優れた選択性を与えるという本発見は、”水”の溶媒としての積極的な活用を通じ有機化学の新境地を切り拓く可能性を示す例であることからプレスリリースを行い、研究成果を発信した。またO-エノラート機構に基づく不斉制御であることから、これまで報告例のなかったニトロオレフィンへの拡張やジエノンに対する1,6-付加反応への展開にも成功し、回収再使用など触媒の不溶性を存分に活かした応用性も示すことができた。また反応機序における水の役割を解明することは本課題の主眼である"水を積極的に活用する反応の開発”に繋がるため、水溶液中での立体選択的触媒反応の理論的な解明を行い、過去に報告した不斉鉄(II)触媒による水系溶媒中での向山アルドール反応の収率・選択性における水の効果を明らかになった。計算により導き出された選択性は実験結果とよく一致しており、これらの知見は今後の水系溶媒中での反応開発に大いに資することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主たる目的は、水中でしか進行しない反応、水中でしか発現しない選択性を追求すべく、水中で有効に機能する触媒系の探索と水中における新規反応場構築法の模索である。有機化合物は基本的に水には溶けないために、水溶媒中での有機反応や触媒反応は不均一系をなすが、一般に、不均一系の反応は均一系の反応に比べ、反応速度や収率の面で不利であるとされている。また、水溶媒中では不斉触媒の加水分解が多々優先するなど、有機溶媒中で涵養されてきた教科書的な有機化学は通用しないことが多い。しかしながら見方を変えれば、特異な環境ゆえの特異な分子変換を行える可能性が潜在している。水中反応場を構築することに問題解決の糸口を見出すべく試行錯誤を行った結果、複数の有望な系を見出している。触媒、両基質すべてが不溶である場合に最も優れた選択性を与えるという事例は、論文発表にまで漕ぎ着けることができた。本発見は、”水”反応場を積極的に活用することによって有機化学の新境地を切り拓かんとする本研究課題の趣旨に合致した一例といえ、その他新規触媒系の開発や、溶媒としての水が必須である反応に対しての理解の深化を推進し、順調な進捗が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、水中で有効に機能する触媒の開発を主目的の一つとする。特異な水中反応場を構築することに合成的な有用性、可能性を見出しており、この結果をさらに発展させ、新たな触媒分子を開発することで多様な特異反応場を発信していくことを目指す。触媒、両基質すべてが不溶である場合に最も優れた選択性を与えるという点に関しては、非常に難航することが予想されるものの、興味深い結果であるため理論的な解明が望まれる。得られた知見は再度、新規触媒・反応開発ステージへと還元されることが期待されるため、一つの目標とする。
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Research Products
(15 results)