2015 Fiscal Year Annual Research Report
明末清初における異姓書坊間の広域的連携の研究――覆刻・翻刻を手掛かりに――
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15H06238
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
上原 究一 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (30757802)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 中国文学 / 書誌学 / 覆刻・翻刻 / 出版文化 / 書坊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は明末清初の商業出版の2大中心地であった金陵と建陽で同じコンテンツが出版された事例をなるべく多く収集して分析することと、両地の大手書坊の活動時期や歴代主人についての調査を進めることを通じて、明末清初の時期に異なる地域の異姓書坊間に一定の提携関係があったことを明らかにした上で、その実態を把握することを目指すものである。 当該年度においては、その第一歩として、先行研究では殆ど認識されていなかった明末における異なる地域の異姓書坊間の提携関係が確かに存在していたことを、査読付学会誌『東方学』第131輯に掲載された単著拙稿「明末の商業出版における異姓書坊間の広域的連携の存在について」において論証した。また、建陽の大手書坊である余氏の刻書活動の実態について、本研究課題の開始前に執筆・校正を終えていた論文の続編にあたる単著拙稿「自新斎系統について――建陽余氏刻書活動研究(2)――」を査読無の学内学会誌『山梨大学国語・国文と国語教育』第21号に発表し、研究代表者が萃慶堂系統・双峰堂系統・永慶堂系統・自新齋系統の四つに分類している明末清初の余氏の書坊の活動状況の解明を進めた。 また、当該年度内には成果の発表にまでは至らなかったが、国内では国立公文書館内閣文庫・宮内庁書陵部・国文学研究資料館・都立中央図書館・東洋文庫・茨城大学図書館など、海外では台湾国家図書館・台湾大学図書館への出張調査を行って、金陵の唐氏・周氏および建陽の余氏の刊本を中心に、それらの活動状況を把握する上で有用な資料や、相互に覆刻・翻刻を行っている事例、および近い時期の他の書坊における覆刻・翻刻の事例を多数調べ上げて、必要に応じて複写物を入手した。今後それらを整理検討することによって、異なる地域の異姓書坊間の関係がより一層明らかになると見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、成果の発表の面においては、研究実施計画に記した通り、通説に反して明末清初には異姓書坊間の広域的連携が存在したことを唐氏や周氏が刊行した書物の多くが建陽の余氏によって覆刻・翻刻されている事例を通して論証する論文を査読付学会誌に投稿し、年度内に公刊することが出来たので、これに関しては全く計画通り順調に進展した。 また、もう一つ研究計画書に記した、建陽の余氏の書坊の活動状況や歴代主人について考察する論文も、本研究課題の開始以前に執筆・校正を終えていた論文の続編として査読無しの学内学会誌で公表した。それらの論文において四系統に分類した余氏の書坊のうち、まだ二つの系統については詳細な考察を公表出来ていないので、その点に関してはまだ課題が残っているが、それについても既に一定の見通しは得られているので、おおむね順調に進展していると言える。 また、年度内に成果を発表するには至らない資料の収集の面においては、国内では国立公文書館内閣文庫・宮内庁書陵部・国文学研究資料館・都立中央図書館・東洋文庫・茨城大学図書館などへの出張調査、海外では計画していた台湾台北市の台湾国家図書館・台湾大学図書館などへの出張調査を実施し、それぞれの所蔵する関連漢籍資料を閲覧調査した上で、必要に応じて複写物を入手した。主目的とした金陵の唐氏・周氏および建陽の余氏の刊行した書物およびその覆刻・翻刻本(あるいはその底本)のほか、杭州の容与堂をはじめとする書坊が明末に刊行した「李卓吾先生批評」を銘打つ複数の戯曲刊本について多くの資料を収集し、それらにも覆刻の事例が多々認められることが確認出来たので、この面では当初の計画を上回る知見が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は当該年度の資料収集の成果を活かして、まずは杭州の容与堂を中心とした書坊の手で明末に多数刊行されていた「李卓吾先生批評」を銘打つ戯曲刊本の覆刻の実態についての論考をまとめる。また、研究代表者がこれまでの成果の中で四系統に分類している余氏の書坊のうち、まだ歴代主人やその活動状況に関しての詳細な考察を公表していない双峰堂系と永慶堂系についても、論文をまとめて公表の目途を立てたい。 更に、これまでは金陵の唐氏・周氏および建陽の余氏を主たる調査対象として、両者が相互に相手方が地元で刊行した刊本を自らの活動地域で覆刻・翻刻している事例が多々認められることを解明して、活動地域を異にし、同族というわけでもない両者の間に提携関係を認めるべきことを指摘したが、今後はそれらに加えて、建陽の余氏との提携が認められる建陽の楊氏や劉氏の書坊、および金陵の唐氏と関係があった可能性がある建陽の熊氏の書坊に関しても、唐氏・周氏・余氏についてと同様の検討を行いたい。具体的には、当該年度に唐氏・周氏・余氏について行ったように、日本・中国・台湾などの公的機関を中心に出張調査を実施して関連資料を収集した上で、それぞれの活動実態や歴代の主人についての解明を進めつつ、これらの書坊が他の書坊による刊本を覆刻や翻刻している事例がどの程度認められるのかについて考察を深める。その作業によって、単に異なる地域の異姓書坊間に提携関係が存在したということだけではなく、そのような提携が珍しいものだったのか、それとも一般的なことだったのかという問題や、互いに連携を持っていた金陵や建陽の大手書坊が、明末に商業出版が盛んになる蘇州や杭州の書坊とはどのような関係にあったのかなどといった問題について、解明を進めることが見込まれる。
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Research Products
(3 results)