2015 Fiscal Year Annual Research Report
科学の頑健性の分析による科学的実在論の擁護の可能性についての研究
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15H06240
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
野内 玲 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (60757780)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 科学哲学 / 科学的実在論 / 哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、科学哲学における先行研究のリサーチを念頭に、日本においてこれまで言及されることの少なかった下記の3文献を中心に頑健性という概念の分析・モデル構築を行った。(1) Soler (eds.) (2012) Characterizing the Robustness of Science: After the Practice Turn in Philosophy of Science, Boston Studies in the Philosophy and History of Science, Springer この文献では、科学の諸分野におけるケーススタディから、頑健性概念の多様な使われ方が研究されている。 (2) Weisberg, M. (2013) Simulation and Similarity, Oxford University Press モデルの理想化という観点から、シミュレーションにおける頑健性が検討されている。 (3) Hudson, R. (2013) Seeing Things: The Philosophy of Reliable Observation, Oxford University Press 3つのケーススタディを基に、様々な科学的研究対象の観察における頑健性の役割について検討している。
これらの先行研究の分析により、科学的実在論の奇跡論法について、既存の議論とは違う形での擁護が可能かどうかを検討中である。特に(3)においては、科学哲学者が頑健性を過剰に評価しているという考察が提示されており、本研究を進めていく上での重要な示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は採択時期の都合で半年分しか研究期間がなかったが、本研究における基本文献の収集および検討を中心に研究を進めた。本来、頑健性という概念の議論は、科学的実在論論争とは別の独立した文脈で論じられることが多く、両者の関連付けに注意しつつ検討を重ねた。
具体的には、「研究実績の概要」でも述べたHudsonの先行研究は、科学における頑健性という概念の役割についてむしろ否定的な立場から、頑健性に頼らない形での実在論擁護を試みている。ただし、Hudsonの考察では科学的実在論論争において重要な論点であった、「新奇な予言の導出による経験的成功」という観点が抜け落ちている。この観点からHudsonの考察を検討し直し、その成果を来年度の学会で発表すべく、準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時においては、「実際の科学の現場への参与観察を通した頑健性概念の検討」を予定していた。しかし先行研究との関連性、そして参与観察予定であった研究グループの事情を考慮した結果、次年度は当該研究グループをリアルタイムに追うのではなく、関連する領域のこれまでの研究成果を通して、本研究の目的をフォローする。この路線変更については研究費申請の当初から考慮に入れており、本研究の遂行にあたって、別段の影響はないと考えている。
また、次年度は学会等での成果発表を念頭に置きつつ、研究を進める予定である。ただし、申請時に予定していた国際学会(The Philosophy of science Association Biennial Meeting)での研究発表は困難となってしまった。当該学会へは、海外の最新の研究動向の調査という形での参加を計画している。一方、国際的な情報発信としては、7月に京都大学で開催が計画されている科学的実在論の国際ワークショップにおいて研究発表する予定がある。
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