2015 Fiscal Year Annual Research Report
水蒸気爆発とマグマ爆発:噴煙中の水蒸気の同位体組成を利用した遠隔推定法開発
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15H06264
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 幸士 名古屋大学, 環境学研究科, 研究員 (80762252)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 水蒸気 / 酸素同位体比 / 水素同位体比 / 火山学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、火山から放出された噴煙中の水蒸気の水素・酸素安定同位体比を指標に用いることで、対象となる活火山の噴火様式 (水蒸気爆発かマグマ爆発か) を判別する新手法の開発である。具体的には、従来、大気中の水蒸気の同位体比分析に用いられてきた『低温凝縮法』に代わり、フィールドで真空捕集瓶を用いて採取した大気水蒸気の濃度・安定同位体比をキャビリティリングダウン分光分析装置(CRDS)によって高感度分析する『真空捕集法』を開発し、火山の噴煙に応用する。今年度は、主に以下の研究を進めた。 (1) 低温凝縮法と真空捕集法の比較実験 実験室内において、低温凝縮法・真空捕集法で得られた水蒸気濃度・同位体比の結果を比較し、真空捕集法における確度の検証を進めた。水蒸気濃度は、2つの実験間において非常に良好な相関が確認された。水素・酸素同位体比は、若干実験間の違いがあるものの系統的な傾向を示すことから、補正法を検討することでより適切な測定値が得られるものと考えられる。 (2) CRDSによる水蒸気測定へのSO2・H2Sの影響評価 水蒸気の濃度・同位体比が既知の試料に対して、SO2・H2S標準ガスを混合し、CRDSによる水蒸気の濃度・同位体比測定におけるSO2・H2Sの影響を評価した。その結果、SO2・H2SはCRDSによる水蒸気の濃度・同位体比測定にほとんど影響を及ぼさない事がわかった。 (3) 箱根山上湯場噴気地帯における検証実験 真空捕集法を用いて上湯場噴煙地帯の噴煙試料を採取・分析した。水蒸気濃度・同位体比のデータセットは、明瞭な混合曲線を示した。混合曲線から推定された火山噴気中の水蒸気の同位体比は、上湯場噴気地帯の噴気孔から直接採取した水蒸気(凝縮水)の同位体比と概ね一致し、真空捕集法によって実際に火山噴気孔から放出される水蒸気の同位体比を遠隔推定出来る可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
真空捕集法と低温凝縮法の比較実験が概ね順調に進んだ他、火山ガスに含まれるSO2・H2SがCRDSによる水蒸気測定に大きな影響を及ぼさないことがわかった。また、箱根山上湯場地帯での検証実験も進み、噴気孔から直接採取した水蒸気(凝縮水)の同位体比と、真空捕集法によって推定された同位体比が概ね一致した。上湯場地域で採取した噴煙中のCO2やH2の分析も進み、箱根山に関する有用な基礎データを得ることが出来たことから、順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られたデータを合わせて統合的に解析し、必要に応じて追加実験を進める。また、水蒸気濃度の測定に試料の圧力が若干影響を及ぼす可能性が示唆されたため、試料の圧力が水蒸気の濃度測定に与える影響を評価し、適切な補正方法を検討する。これまでの結果をまとめ、国内の学会で報告する他、原著論文の形にまとめて国際学術雑誌に投稿する。
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