2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H06271
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉本 美海 (橋本美海) 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (70437755)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 重力応答 / 屈性 / 苔類 / CRISPR-Cas9 / ゼニゴケ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゼニゴケを用いて重力応答シグナルの分子メカニズムを解析することを目的としている。そのため、まず初めにゼニゴケを生育するための環境を整備する必要があった。今年度はゼニゴケが問題なく生育する条件を確立し、ゼニゴケの重力応答を解析するための条件検討を行った。青色光受容体photの変異株Mpphot変異体をコントロールに用い、光や培地の位置を変化させることによりゼニゴケ葉状体における屈性を調べると、水屈性はあまり見られず、光、重力の影響を大きく受けることが明らかとなった。さらに、我々の研究室で扱っているシロイヌナズナの重力関連遺伝子RLDの機能理解を深めるため、ゼニゴケのRLDオルソログMpRLD遺伝子のノックアウト変異体を作成した。CRISPR-CAS9のシステムを利用し、MpRLD遺伝子の2か所をターゲットにして遺伝子破壊を試みた。それぞれ20系統の選抜個体を調べた結果、1つの個所では全く塩基配列の異常は生じておらず、もう1つの方でも3系統のみ塩基に変化が生じていた。現在これら3つの系統について、発現解析および重力応答性を調べているところである。発現および重力応答が低下している個体においてはさらに相補実験を進める予定である。現在相補用のコンストラクトを作成しているところである。MpRLDの発現部位はゼニゴケの重力応答を解析する際に重要な情報であるためMpRLD promoter::GUSのコンストラクトを作製、ゼニゴケに遺伝子導入し、形質転換体を得た。このG1植物では葉状体の中央部、および連結部、仮根においてGUS活性が見られた。仮根は重力応答を示す部位であることが知られているが、葉状体では周縁部が重力屈性を生じるため予想外の結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずゼニゴケがシロイヌナズナとほぼ同じ植物実験施設で生育できることを確認した。また、形質転換には多量の胞子が必要となるが、ゼニゴケの生殖誘導には遠赤色光が必要である。遠赤色光設置により生殖器の誘導まで成功したが、胞子形成には至っていない。CRISPR-CAS9のシステムを利用しゼニゴケのRLDオルソログMpRLD遺伝子のノックアウト変異体を作成した。この結果、目的の部位で塩基配列に変化が見られたものは3系統あった。系統2では21アミノ酸の挿入、系統9では12アミノ酸欠損、1アミノ酸改変、系統8ではフレームシフトになり、stopコドンが生じると予測された。現在相補用のコンストラクトを作成しているが、これはMpRLD promoter::MpRLDCDS-Citrinの構造を持つ遺伝子であり、相補と同時にMpRLDの組織及び細胞内局在も調べることができる。また、MpRLDの発現部位をMpRLD promoter::GUS遺伝子を導入した形質転換植物で解析を行った。1週間おきにGUS染色を行い、7週間調べた。G1植物では葉状体の中央部、および連結部、仮根においてGUS活性が見られた。また若い植物体の方がGUS活性は高いことが明らかとなった。若い杯状体から取り出したばかりの無性芽ではGUS活性はなく、背腹も決定されていない。そこで、今後は無性芽において重力刺激を与えて何時間後にGUS活性が見られるか、背腹決定は何時間後に決まるのかを調べる予定である。この結果は今後の変異体スクリーニングの条件検討にも必要な情報である。以上、ゼニゴケRLD遺伝子機能解析、および変異体スクリーニングに向けて解析が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
重力応答と光応答は競合する応答であり、重力応答を解析する際には光応答を排除しなければならない。しかし、そのために暗闇にするとゼニゴケは全く成長できず、光をあらゆる方向から均一にあてることは難しいという問題があった。共同研究者との議論の中で、ゼニゴケにおいて青色光は光屈性を引き起こすが、赤色光は光屈性を引き起こすことなく光合成を誘導できるという情報を得ることができた。そこで、これまで使用していた白色光の代わりに赤色LEDを使用して重力応答を調べる予定である。これが利用可能ならば、遺伝子背景がMpphot変異体でなくても光屈性の影響を排除できるので、変異体スクリーニングにも赤色光を使用すればよく、変異体単離後にMpphot遺伝子の相補をして表現型を再検討するなど複雑な過程を省略することができる。また我々の研究室では重力応答関連因子としてシロイヌナズナのDLLsおよびRLDを単離しており、これらはそれぞれCDL, BRXと呼ばれる短い配列において相互作用する。さらにCDLまたはBRXの過剰発現は重力屈性の正負を逆転させる効果があることを突き止めている。ゼニゴケにはDLLsおよびCDLと類似した配列は検出されていないが、もしシロイヌナズナのCDL配列の過剰発現がゼニゴケでも重力応答に影響すれば、ゼニゴケにも高等植物と共通の重力応答メカニズムが存在し、高等植物では重力応答に関わる因子を増加させていった可能性が考えられる。そこで、ゼニゴケにおいてCDL配列の過剰発現体を作成し、表現型を観察する。また、BRX配列の過剰発現体の表現型も解析する予定である。
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