2015 Fiscal Year Annual Research Report
キリスト教聖書の翻訳にみられる現地語語彙の選択とローカル社会の再編
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15H06295
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田崎 郁子 京都大学, 東南アジア研究所, その他 (00760711)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | プロテスタント・キリスト教 / 少数民族 / タイ / カレン / 労働規範 / 贈与と互酬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はタイでの渡航調査に加え、博士論文の執筆、およびその発表を行った。 タイでの調査では、プロテスタント宣教で用いられてきた教会の語彙についてカレン語文献を収集した。また、宣教拠点となってきた教会や集落において、キリスト教の語彙が日常生活の中でどのように用いられているのかについて、フィールド調査を行った。 また『タイ北部プロテスタント派カレン地域における宗教実践と社会経済関係の動態』と題した博士論文を京都大学に提出し、学位(博士、地域研究)を受理した。これまでマイノリティのアイデンティティや形而上学的な議論が主になされてきた東南アジアのキリスト教受容に関する人類学的先行研究に対して、博士論文では定着したキリスト教のもたらした日常生活を分析した。特に、プロテスタント・キリスト教と親和性の高い資本主義経済体制との関連に着目して、イチゴ栽培という多大な初期投資・労働投入の下で、カレンの労働にまつわる規範、そして贈与と互酬に関する概念を軸に考察した。また日本文化人類学会近畿地区博論発表会でこれを発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は半年間という短い時間的制約の中で、予定通りタイでの渡航調査を行うことができた。調査ではプロテスタント宣教で用いられてきた教会の語彙についてカレン語文献を収集した。また、宣教拠点となってきた教会や集落において、キリスト教の語彙が日常生活の中でどのように用いられているのかについて、フィールド調査を行った。また、期間の前半では論文執筆に取り組み、この成果を日本文化人類学会でも発表することが出来た。よって、研究はおおむね順調に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度はさらに、ミャンマーとタイでの渡航調査を行い、キリスト教受容を経験した東南アジア大陸部山地のマイノリティを事例に、聖書の翻訳や伝道における現地語の強調、教会の言葉遣いとそれによるローカル社会の再編過程について、人類学的な手法を用いて調査と考察を進める。特に、植民地期のビルマに始まりタイへと拡大していくプロテスタント宣教活動とカレンの日常生活との相互作用に着目する。 また、2015年度の調査結果も踏まえて、『文化人類学』『東南アジア研究』あるいはSingapore Journal of Southeast Asiaへ投稿論文を執筆する。さらに、9月にはイギリスのエディンバラで、宗教と言語に関する国際学会に、3月にはアメリカのアジア学会に出席を予定している。2つの国際学会で研究成果を発表すると共に、日本国内の宗教と社会学会や日本文化人類学会、東南アジア学会でも研究発表を行う予定である。
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Research Products
(5 results)