2015 Fiscal Year Annual Research Report
不確実性を考慮したアユ回遊環境の数理・数値モデリングとその実用化
Project/Area Number |
15H06417
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
吉岡 秀和 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (70752161)
|
Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
Keywords | 回遊魚 / 河川回遊 / 内水面漁業 / 確率制御理論 / 非線型偏微分方程式系 / 粘性解 / 有限要素法 / 有限体積法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,河川水系に生じる魚類回遊の数理モデル化,およびモデルにもとづき計算機上で魚類回遊を再現できる接近手法の開発である.このような接近手法が開発されれば,河川環境の変化が魚類回遊に与える影響の評価や予測が実現可能となる.本研究では,我が国の主要な内水面水産資源である両側回遊魚アユを対象魚種とし,研究代表者の所属機関からアクセスが容易かつアユ回遊量の減少が懸念されている斐伊川水系を研究対象地域とする. 本年度の研究成果は以下のとおりである. まず数理モデル化では,魚類個体の位置を連続時間確率過程として捉え,その時間発展を記述する確率微分方程式を定式化した.つぎに,魚類個体は河川水系の上流域(生息地)まで遡上すると生態学的な利益を得る一方で遊泳時には遊泳速度に依存した体力を消費するという仮定のもと,回遊過程を通して最大化すべき目的関数を定式化した.その後,確率制御理論の援用により,目的関数の期待値を最大化する最適遊泳速度を導くハミルトン・ヤコビ・ベルマン(HJB)方程式(非線型偏微分方程式)を導いた.すなわち,魚類回遊の解析を偏微分方程式の求解に帰着させた.HJB方程式が有する厳密な粘性解の性質を数学・生物学・生態学的な観点から解明し,アユを含む魚類の回遊に関する既存の実験・観測結果と本数理モデルが整合的であることを示した.この数学解析は平成28年度も引き続き実施する. 数値計算手法の開発については,HJB方程式に対する安定かつ精緻な有限要素法を開発し,その高い実用性を実証した.なお,魚類回遊の解析を行うには河川水の流れを精緻に算出する必要がある.本研究では,研究代表者らが開発した流体解析手法が複雑地形を有する実河川に対しても有効に機能することを実証した.以上に並行し,地方自治体や地元の漁業協同組合と斐伊川の河川流況や水質,魚類回遊に関する現地調査を進めている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究では数理モデル化と数値計算手法の開発がひととおりなされた.また,単純化された条件下ではあるか,それらの斐伊川水系における実問題への応用例も示すことが出来た.現地調査の実施体制も27年度中にある程度整い,斐伊川水系の上・中流域の水理・水文を連続的に観測するシステムの構築を行うことができ,その運用を開始できた.
|
Strategy for Future Research Activity |
まず,数理モデル化については,HJB方程式の数学解析を引き続き実施し,その解構造を数学的な観点からさらに明らかにしていく. 現地調査については,平成27年度に構築した斐伊川水系の上・中流域の水理・水文の連続観測システムを本年度も運用し,さらなるデータの収集や分析を実施する.
|
Research Products
(14 results)