2015 Fiscal Year Annual Research Report
『東文選』を例とした東アジア漢字圏における辞賦受容に関する研究
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15H06461
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
栗山 雅央 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 専門研究員 (20760458)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 『東文選』 / 辞賦文学 / 朝鮮文学 / 東アジア漢字圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『東文選』が文学研究における資料的価値が殆ど認められていない現状に鑑み、まずは周辺環境の整備に努めた。主に『東文選』の版本調査及び、賦学と朝鮮文学に関する先行研究の収集を行った。 『東文選』の版本調査については、すでに二種類の版本(慶煕出版社本、学東叢書本)を入手していたが、それと併せて国立公文書館に収蔵される版本(豊後佐伯藩主毛利高標献上本)について現地調査を行った。これについては、従来は『東文選』の定本とされるものが定められていないことから、諸本の校勘の必要性があるためである。調査の結果として、慶煕出版社本と豊後佐伯藩主毛利高標献上本とは版木を同じにするが、序文に異同が確認できた。現在までにすべての校勘は終了していないものの、現状では諸版本間の本文異同は見られていない。 また、賦学研究と朝鮮文学研究については、これまでに在籍機関に殆ど先行研究が収蔵されなかったことから、賦学研究については南京大学許結氏による一連の研究書を新たに購入した。また朝鮮文学については、国内での研究書が多く見られないことから、朝鮮文学史に関する中国で出版された研究書を新たに購入した。 以上、本年度は次年度に行うべき研究の基礎を構築する時期として認められるが、その過程で『東文選』に残された辞賦作品が殆ど顧慮されてきていないことも新たに確認できた。本研究は東アジア漢字圏における辞賦受容考察するものであるが、このことは従来の研究の欠を補う意味で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来は『東文選』の校勘に用いる版本として、二種類の版本(慶煕出版社本、学東叢書本)を想定していた。しかし、その後に新たに国立公文書館に収蔵される版本(豊後佐伯藩主毛利高標献上本)をも利用する必要が生じ、国立公文書館での現地調査などを行うことになった。結果として、校勘作業がすべて終わるまではいたっておらず、このため若干の遅れが生じているが修正が可能な範囲内である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の上半期は、『東文選』がどのような社会、政治状況の中で編纂されたかを確認し、当時において「辞賦」という文体がどのように受容されたかについての考察を行う。具体的には、松浦友久「『文選』と『本朝文粋』における賦の地位」(『日本上代漢詩文論考:松浦友久著作集III』研文出版、2004 年)に見られる研究手法を採用し、朝鮮における辞賦受容の様相を明らかにした上で、日本・中国・朝鮮の比較検討を行う予定である。現在のところ、『東文選』には以下の辞賦作品(辞10篇、賦34篇)が残されるが、3巻を占めるに過ぎず、流行していたとは必ずしも考え難い。しかしながら、総集の冒頭に「辞」「賦」の順に作品を配置することは『東文選』独自の現象であり、この点について考察する必要があると考えている。 また次年度の下半期は、上半期の研究内容に基づき、具体的に『東文選』巻一所収 の李仁老「和帰去来辞」及び同巻二所収の崔滋「三都賦」に関する考察を行いたい。李仁老「和帰去来辞」は『文選』巻四十五所収の陶淵明「帰去来辞」に唱和した作品であり、崔滋「三都賦」は『文選』巻四 から六に収められる左思「三都賦」に倣った作品であるため、直接に『文選』との関係性が認められる。上述の作品について、『文選』所収の諸作品との比較を通じて、『東文選』所収の両作品に見える特徴を考察する予定である。 また、これらの研究内容については、中国厦門大学で開催される第 11 回『文選』学国際学術検討会及び、中国武漢三峡で開催される辞賦学学術検討会にて発表を行う予定である。
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