2015 Fiscal Year Annual Research Report
中世イエメン社会へ流入する人々―新たなる社会秩序の創出と展開―
Project/Area Number |
15H06464
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
馬場 多聞 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 助教 (70756501)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | ラスール朝 / イエメン / アラビア半島 / インド洋 / 東洋史 / 東アフリカ / 奴隷 / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ラスール朝下イエメンへ流入した人々と、彼らが権力構造ならびに社会秩序へ与えた影響について考察することで、中世イスラーム世界における人々の移動の歴史を「地方」史の視座より再検討することを目的としている。イスラーム世界の辺境に位置するイエメンに栄えた王朝に焦点をあて、そこで観察される外来の人々の諸相を中世イスラーム世界史の文脈に位置付ける。そのために、関連するアラビア語文献を網羅的に収集・分析し、史料上に頻繁に記録された人間集団の諸相を解明する。その結果、ラスール朝全体史の構築への寄与が可能となるど同時に、イエメンの他時代の王朝や中世イスラーム世界の他王朝に見られる人々の流入とその影響について相対的に分析することが可能となる。 第一に、ラスール朝宮廷に仕えた奴隷身分と思しき人々ついて検討する。イエメン社会には古来、東アフリカより様々な人々が流入していた。彼らはアデン港税関において課税品として取り扱われ、奴隷としてラスール朝やイエメン社会へ至った。中には、宦官としてラスール朝の高位に登り詰める者も見られた。イスラーム世界の中心で培われた官僚制度や奴隷制度の受継や、外来からの流入者の受容の過程と結果を踏まえつつ、彼らの実態を明らかにする。 第二に、軍事集団について検討する。ラスール朝下イエメンでは、東アフリカ出身者ではなく北方由来の人々が専ら軍事集団を形成した。彼らはラスール朝内外に存在し、ラスール朝の軍隊の主力であると同時に、政権運営にとっての不安要因でもあり続けた。そうした人々の実態について、イエメン山岳部族との関連に目を配りつつ、分析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従って、ラスール朝関連史料を収集するとともに、それらの史料における外来の人間集団の記述を集めた。また、中世アフリカ史やインド洋交易史に関する研究書を収集し、長官的な視座よりイエメンにおける人間集団の流入を分析できるようにつとめた。その結果、ラスール朝下に特に東アフリカより流入した奴隷身分と思しき人々の特徴が明らかにされつつある。一方で軍事集団に関する検討が、最終年度の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、軍事集団に関する検討が今後の課題である。特にラスール朝下イエメンにおいては北方由来の人々が集団を形成して軍事活動を行っていたことから、彼らとイエメン出自の人々、そして東アフリカ出身の人々の関わりに着目しつつ、具体的な状況を明らかにする。
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