2015 Fiscal Year Annual Research Report
高等教育における国際的接続の「日本的構造」研究―留学生向け予備教育を手掛かりに
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15H06467
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中世古 貴彦 九州大学, 教育改革企画支援室, 特任助教 (50757656)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 高等教育 / 国際化 / 留学生 / 予備教育 / 日本語教育機関 / 機能別分化 / 国際的接続 / 正系・傍系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「高等教育における国際的接続の『日本的構造』研究―留学生向け予備教育を手掛かりに」は、なぜ日本の大学には付属の語学学校が存在しないのかという問いを中心に、日本の高等教育の国際化の過程や、今後期待されている飛躍的な国際化のための課題を検証することを目的とする。 従来大学とは別セクターとして扱われてきた留学生向け予備教育を積極的に高等教育システムの中に位置づけて、国内外の事例も踏まえて検討を進める中で、高等教育分野の先行研究の知見と相似形の構造が明らかになってきた。具体的には、予備教育を充実させることで多様性を高めた高等教育システムの中でエリート大学が保護されてきたこと、エリート校に垂直的に接続されるが別の組織が担う予備教育をエリート機関の監督の下に置くことにより予備教育に正当性を与えつつ質の保証を行ってきたこと等の類似性が浮かび上がってきた。本研究にいて収集した資料等を基に、現代の日本では見られないエリート大学直結型の留学生向け予備教育について、単に予備教育セクターにおける事例としてではなく、高等教育システム全体の中における機能という観点から議論する準備ができた。留学生向け予備教育を別セクターの問題として等閑視してきた日本の高等教育政策や大学経営を捉え直す視点を構築できた。 約半年を終えた現時点での主な成果としては、別の研究課題をベースにした論文の一部に本研究からの知見を反映した他、華東師範大学(中国、上海)における研究会等で発表を行った。本研究課題としての刊行済み論文等はまだないが、平成28年度中の投稿・発表に向けて現在執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成27年度後半では、資料収集、関係団体へのインタビュー、文献レビュー、関連学会での情報収集などを中心に研究を進めた。資料収集に関しては、国立国会図書館、国立公文書館、外務省外交史料館に赴き、現存する資料や入手困難な文献等を収集した。また、日本語教育振興協会を訪問し、日本国内における実質的に最大の予備教育セクターである日本語教育機関について聞き取り調査を行い、通常では入手困難な資料も収集した。その他にも、研究テーマに密接に関連する学会等(留学生教育学会、日本教育社会学会、日本高等教育学会、他)に参加し、情報収集を行った。いずれからも有益な資料や情報を得ることができた。 研究の推進方針について若干の修正が生じたが(後述)、研究目的を達成するためにはむしろ望ましいと考えらえ、進捗状況にも特に問題は生じていない。初年度の半年間で公表できた研究成果は少ないが、現在執筆中の論文もおおむね順調に作業が進んでおり、特に懸念されることはない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始時点では、国内の歴史的な過程を丹念に辿る作業が中心になると想定していた。しかし、国内外の先行研究や関連する事例を調査するうちに、多様化やエリートセクターの保護といった高等教育の発展理論や、近年の諸外国の動向を踏まえて検証を加える方が、日本の状況の特徴をより深くかつ斬新な視点からとらえるのに有益であることが明らかになった。また、国内の資料や先行研究を渉猟する作業を進めるにつれて、この方法が主となると既に一定の蓄積がある既存の日本語教育研究や大学史研究に当初の想定よりも類似していきそうな様相を見せ始め、本研究の意義や独自性を十分に示しにくくなる虞が大きくなってきた。 そのため、国内事例に対する歴史研究的アプローチは(もちろん先行研究は踏まえるとしても)当初の想定よりは軽めにし、理論研究及び比較研究にやや重きを置いたアプローチに切り替えることにした。 上記の変更によって研究の目的自体が変更されるわけではなく、むしろ目的達成のためにより効果的なアプローチになったと考えられる。細かい作業内容や訪問調査先の一部に変更が生じる可能性があるが、研究計画自体に大幅な変更が必要となるわけではない。平成28年度もほぼ計画通りに研究を推進できると考えている。
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Research Products
(3 results)