2015 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化と熱帯性魚類寄生カイアシ類: 日本列島への侵入予測と防除の為の基礎研究
Project/Area Number |
15H06517
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
上野 大輔 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (20723240)
|
Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
Keywords | 地球温暖化 / 魚類寄生虫 / 寄生性カイアシ類 / 分類学的研究 / 未記載種 / 寄生生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱帯アジアから琉球列島および日本列島南部沿岸域へ、北上する暖流に乗って分布域を拡大し、爆発的に増加する可能性がある有害な魚類寄生性カイアシ類の推定と生態の解明を行うことを目的としたものである。鹿児島県の南部に位置する徳之島、加計呂麻島、奄美大島、喜界島、宝島、悪石島、諏訪之瀬島、中之島、口之島、屋久島、さらに鹿児島県本土における野外調査を実施し、スキューバとスノーケルを用いた潜水調査を実施した。この調査ではまず魚類の採集を行い、それらに寄生するカイアシ類の探索を行った。また、本研究期間が開始する以前に琉球列島や日本列島沿岸域、さらには海外で実施した野外調査で採集した寄生性カイアシ類の標本を用いて研究を行った。本期間中に新たに行った調査からは、約30種に上る寄生性のカイアシ類が採集され、その中には多くの未記載種が含まれていた。また、神奈川県の江の島沖に漂着したアマシイラから採集されたサメジラミ科カイアシ類の1種は、日本未記録の種であった。このように、多くの未知の寄生性カイアシ類の存在が明らかになりつつあり、そのうち数種については既に形態学的手法を用いて分類学的研究を進めている。また、本研究では魚類と併せて、熱帯域において有用な食資源として利用されている巻貝類についても、魚類寄生性種と同様に今後分布域を拡大する恐れがあるとみて寄生性カイアシ類相について調査を行ったところ、5種の寄生性カイアシ類が発見されそのうち4種は未記載種で、1種は日本未記録の種であることが明らかとなった。これらの種については形態観察を実施し、記載論文として取り纏めてZootaxa誌へ投稿中である。また、琉球列島と北海道沿岸で調査期間以前に採集した寄生性カイアシ類について、新種記載を含めて取り纏めた学術論文2編が、本期間中に出版された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在は、本研究の開始時期から約半年が経過した状況であるが、好天候が続き野外調査が計画通りに実施できた。また、得られた寄生性カイアシ類の種数は予測を超え多く、その多くが未記載種を含む本邦未報告の種であった。これら未報告の種のうち数種に関しては、既に形態観察から十分な結果が得られたために、2編の新種記載論文として取り纏めているところである。また元々本研究は、数ある寄生虫のグループから魚類に最も深刻な影響を与える可能性が高いものとして、カイアシ類に注目したが、実際に調査を進める中で、有害性が高い他分類群のチョウ類が発見された。本種は、地球温暖化の影響による水温上昇を受けて分布を自然拡大した可能性以外に、人為的に熱帯域より持ち込まれた可能性もあり、今後慎重に見究める必要がある。このような想定していなかった寄生生物の発見もあり、本研究は当初予定していた以上に広がり、進捗していると言えると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
琉球列島北部から鹿児島県本土を中心に、これまでわずか半年の間に実施してきた野外調査からは、既に多くの未報告の寄生性カイアシ類が分布していることが明らかになってきた。今後は、これまで未調査の海域においてもカイアシ類の採集を行い、これらの海域に生息する魚類寄生性カイアシ類相をまず、明らかにすることを目指す。また、海外における調査は、今後パラオにおいて実施することを考えている。寄生性カイアシ類の種多様性と分布、さらに寄生生態を理解することが、本研究の胆であると考えるので、基本的には27年度と同様にカイアシ類の外部形態と必要に応じて分子系統学的手法を用いた研究展開を行い、それに加えて、特に有害性が高い種については宿主へ与える影響についても、明らかにすることを目指したい。
|
Research Products
(2 results)