2015 Fiscal Year Annual Research Report
大気汚染公害訴訟と地域再生-公害被害の社会過程分析と地域間比較分析ー
Project/Area Number |
15H06582
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
江頭 説子 杏林大学, その他部局等, 特任講師 (20757413)
|
Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
Keywords | 社会学 / 大気汚染公害 / 大気汚染公害被害 / 大気汚染公害訴訟 / 地域再生 / 公害経験 / 社会過程分析 / 地域間比較分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
千葉川鉄公害訴訟に関する資料・先行研究のサーベイの実施、千葉川鉄公害関係者への聞き取り調査を実施した結果、千葉川鉄公害訴訟におけるアクター(組織、団体、関与者)を整理し図式化することができた。その結果、申請者がこれまで研究を積み重ねてきた倉敷公害訴訟のアクター図との比較により、その行為主体が異なることが明らかとなった。千葉川鉄公害訴訟は、千葉川鉄工場に近接する千葉高校の教諭らが中心となり組織化した「千葉市から公害をなくす会」を母体として「千葉川鉄公害訴訟原告団」が結成された。それに対し、倉敷公害訴訟は、水島共同病院の医師、保健組織部長、診療技術部長、専務理事らが中心となり組織化した「倉敷市公害患者と家族の会」を母体として「倉敷公害訴訟原告団」が結成された。 原告団結成の主体が異なるだけでなく、訴訟の目的や役割も異なっていた。千葉川鉄公害訴訟の主な目的は、「健康被害への損害賠償」と「川崎製鉄の6号高炉の操業差し止め」にあり、倉敷公害訴訟の主な目的は、「健康被害への損害賠償」と「基準値を超える大気汚染物資の排出差し止め」にあった。千葉川鉄公害訴訟は、四日市公害訴訟によりある一定の成果を得ていた公害行政の後退へ対抗する役割を担う訴訟であり、財界にとっても公害被害者にとっても日本の公害行政に重大な影響を与える全国注視の訴訟となった。千葉川鉄公害訴訟の直接的な被告は(株)川崎製鉄であったが、その背後に財界の存在があったことに特徴がある。また、1970年代後半から1980年代後半は、西淀川、川崎、倉敷、尼崎、名古屋南部も訴訟がおきており、千葉川鉄公害訴訟の結果が公害健康補償法改悪と深くかかわっていること、その後の大気汚染公害裁判の行方に重大な影響及ぼすことから、地域住民との連携より、全国公害患者の会連合会や他の地域の訴訟団との連携が強い傾向にあったことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に予定していた、Ⅰ千葉川鉄公害訴訟およびその被害地域における調査、Ⅱ西淀川公害訴訟およびその被害地域における調査、Ⅲ倉敷公害訴訟およびその被害地域における追加調査はおおむね順調に実施することができた。 特にⅠ千葉川鉄公害訴訟およびその被害地域における調査については、キーマンである伊藤章夫氏(元千葉県環境行政職員、千葉あおぞら連絡会幹事事務局長)、朝生邦夫氏(元千葉川鉄訴訟原告団副団長、元千葉高校教諭)、中丸素明氏(中央法律事務所弁護士)、酒井健一氏(千葉大気連絡会)、清水和作氏(千葉市公害患者友の会・世話人)に聴き取り調査を実施することができ、貴重な証言を得ることができた。しかし、稲葉正氏(元千葉川鉄訴訟原告団長、元千葉高校教諭)は、2010年に逝去されていたことから聴き取り調査を実施することが叶わなかったが、教え子たちがまとめた貴重な資料「自然の理法 究めんと-稲葉正 不屈の人生-」(2010年 和泉書房)を入手することができた。また、資料・先行研究のサーベイ、聴き取り調査の結果、千葉川鉄公害訴訟において千葉高校が中心的な役割を果たしていたこと、さらに特徴的な活動として高校生が中心となり「公害をなくして、クラブをなくすのが究極の目的」とする公害研究クラブの存在が明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、「千葉川鉄公害訴訟において『地域再生』の視点が取り入れられなかった背景・理由」の分析、「大気汚染公害被害地域である千葉市蘇我地域における地域再生の現状」を明らかにすることを目的とした調査を実施する。具体的には、千葉高校公害研究クラブで活動した人への聴き取り調査の実施(5月~7月)、千葉市公害患者友の会の会員への聴き取り調査の実施(6月~8月)、公害反対運動に関わった労働組合関係者への聴き取り調査の実施(7月~9月)、「あおぞら裁判」をもとに教育実践をおこなっている教育関係者への聴き取り調査(5月~6月)、千葉県・千葉市環境行政資料のサーベイ・関係者への聴き取り調査(7月~9月)、千葉市蘇我地域のフィールドワーク(7月~9月)、川崎製鉄(株):現 JFEスチール㈱の環境政策に関する資料のサーベイ・関係者への聴き取り調査(7月~9月)、千葉市の住民運動(公害・環境関連)の動向調査(8月~10月)を実施する。 これまでの資料・先行研究のサーベイより、千葉市蘇我地域においては「公害地域の再生にむけたまちづくり」の視点による研究が少ないことが明らかになったことから、千葉市の「まちづくり」に関する研究や事例を研究対象として広げ、それらに「公害地域の再生」という視点の有無を確認する。千葉市の「まちづくり」について、「公害地域の再生」という視点がなければ、その理由について明らかにしていく。 さらに、西淀側公害訴訟およびその被害地域と倉敷公害訴訟およびその被害地域との地域間分析を実施し、訴訟において地域再生の視点を取り入れることの意義と課題を明らかにする。
|
Research Products
(1 results)