2015 Fiscal Year Annual Research Report
腸上皮と上皮間リンパ球の相互作用に基づく粘膜上皮層免疫システムの成立機構の解析
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15H06589
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 慶應義塾大学, 薬学部, 助教 (40612130)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 腸上皮細胞間リンパ球 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管には多数の共生微生物が存在すると共に、多種の病原性微生物が腸管経由で感染する。そのため腸粘膜は生体内で最も感染リスクの高い部位である。腸粘膜の最前線に位置する腸上皮細胞は栄養素の吸収に加え、抗菌活性を持つタンパク質の産生などにより腸粘膜面のバリア機能にも重要な役割を果たす。腸上皮細胞層にはユニークな上皮細胞間Tリンパ球 (IntraEpithelial T Lymphocytes; IEL)が存在する。IELと腸上皮細胞は互いの恒常性維持を補助し、また協調して粘膜面におけるバリア機能を形成する。本研究は、腸上皮細胞に選択的に発現する膜タンパク質輸送因子であるAP-1Bに着目し、膜タンパク質輸送を介した腸上皮細胞のIELの細胞集団維持における貢献を明らかにすることを目的とする。加えて、腸上皮細胞とIELの協調による粘膜バリア形成機構に解明することを目指す。 平成27年度は、上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスにおけるIELの細胞数や性状を解析した。その結果、上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスでは、コントロールマウスと比較してIELの生存率と増殖能が著しく低下していることを見出した。このことから、AP-1Bによる膜タンパク質の輸送が、IELの生存と増殖を誘導することで細胞集団の維持に寄与していることが強く示唆される。本研究成果は、腸上皮細胞における膜タンパク質の輸送が、IELの性状に大きな影響を与えることを初めて明らかにするものである。次に、AP-1Bによる膜タンパク質の輸送が、腸上皮細胞とIELの相互作用にどのような影響を与えるかを解析する為に、上皮細胞オルガノイドの単層培養条件を検討した。腸上皮細胞のオルガノイドの単層培養の樹立はほとんど報告されておらず、技術的に難易度が高かったが、成功することができた。これは本研究の目的達成の為に大きく役立つことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は、腸上皮細胞内の膜タンパク質輸送が、腸上皮細胞間リンパ球 (IEL)の細胞集団維持にどのように貢献しているかを明らかにすることを目的とした。まず、腸上皮細胞に選択的に発現する膜タンパク質輸送因子AP-1Bの腸上皮細胞特異的遺伝子欠損マウスのIELの性状の解析を行った。その結果、腸上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスでは、CD8aa陽性IEL が著しく減少していることを見出した。加えて、CD8aa陽性IEL の生存に重要なBcl-2やBcl-xLの発現と、細胞増殖のマーカーの一つであるKi-67の発現を解析した。その結果どちらも著しく発現が減少していたことから、腸上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスではCD8aa陽性IEL の生存と増殖に異常があることが判明した。 次にCD8aa陽性IELの前駆細胞をドナーの野生型マウスから単離し、レシピエントの腸上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスの移入することで、CD8aa陽性IEL細胞に分化に異常が見られるかを解析した。しかしながら、レシピエントマウス内で移入したドナーの細胞を検出することができなかった。これは、移入したドナー前駆細胞数が100,000個と少なかったことに起因すると考えられる。こうしたことから、研究計画に若干の遅延が生じた。また、腸上皮細胞とIELが協調して形成する粘膜バリアの形成メカニズムの解明にも取り組んだ。AP-1Bが腸上皮細胞で輸送する膜タンパク質とIELの相互作用が粘膜バリアの形成に重要であるとの仮説のもと、AP-1B欠損上皮細胞とIELの相互作用を解析する為に、まず上皮細胞特異的AP-1B欠損マウスから上皮細胞オルガノイドの単層培養の樹立を試みた。詳細な条件検討の結果、上皮細胞オルガノイドの単層培養の樹立することができた。樹立した単層培養の腸上皮細胞とIELの培養条件を詳細に検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の進捗状況を踏まえ、まず若干の遅延が生じている実験計画の追試験を行う。CD8aa陽性IELの前駆細胞の移入実験ではドナーの細胞が検出できなかったのは、ドナーマウス1匹あたりの前駆細胞数が少ないため、レシピエントに移入できる細胞数が限定されたことが原因と考えている。そこで多数のドナーマウスを準備することで、この問題を解決する。 追試験と並行して、当初の計画通りCD8aa陽性IELの細胞集団維持に重要な膜タンパク質の候補の探索する。上皮細胞オルガノイドおよび生体の腸上皮細胞から、側基底面細胞に存在する膜タンパク質を単離する。AP-1B欠損マウスと野生型マウスとを比較することでCD8aa陽性IELの減少を引き起こす原因となる膜タンパク質を同定することを試みる。単層培養した腸上皮細胞オルガノイド、およびマウス生体内の腸上皮細胞の側基底面細胞膜を標識する。標識した膜タンパク質を単離し、質量分析法にて網羅的に解析することで、野生型と比べてAP-1B欠損の腸上皮細胞の側基底面細胞膜には存在しない膜タンパク質を同定する。 次にAP-1B欠損腸上皮細胞における、抗菌タンパク質発現減少の機序の解明を試みる。AP-1B欠損腸上皮細胞ではサイトカインの受容体が側基底面細胞膜に正常に輸送されず、粘膜固有層からのサイトカインに正常に応答できず抗菌タンパク質などの発現低下をきたしていると可能性が考えられる。またCD8aa IELの減少が、腸上皮細胞抗菌タンパク質の発現低下を引き起こす可能性も考えられる。まず、単層培養したAP-1B欠損上皮細胞オルガノイドをIL-22やIL-17などのサイトカインにて刺激する。そのアウトプットとして抗菌タンパク質の発現を解析する。またCD8aa陽性IELを上皮細胞オルガノイドと共培養して同様の解析を行う。
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