2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における産業技術の高度化とナショナリズムの変容に関する歴史社会学的研究
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15H06612
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
新倉 貴仁 成城大学, 文芸学部, 専任講師 (50757721)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 社会学 / メディア論 / ナショナリズム / オートメーション / 産業合理化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代から1970年代にかけての日本社会において観察されるナショナリズムの言説の変容をめぐって、その背後にある機制を明らかにすることを目的とする。メディア論とナショナリズム論が交錯する領域として産業技術の歴史を調査することは、従来のナショナリズムをめぐる問題の地平を刷新する可能性をもつ。 ナショナリズムの言説についての歴史的探究の課題に関して、政治学や思想史の若手研究者を中心とした「丸山眞男研究会」に参加し、「戦後社会」についての議論を深めてきた。この研究会での成果をもとに、論文「吉本隆明――個人と共同体のあいだ」を執筆し、『戦後思想の再審判』(2015年,法律文化社)を出版した。また、同内容について、2015年10月10日に千葉大学で開催された日本政治学会にて報告をおこなった(分科会A-5 戦後思想の再審判)。以上の論文および報告は、戦後思想としての吉本隆明を論じるものであり、特に丸山眞男との対比を通じて、彼が大衆社会化やマイホームの拡大といったことを背景に、個人と共同体のあいだに「対幻想」という領域を発見していくことの社会学的意義を論じた。 メディア論とナショナリズム論の関わりをめぐっては、成城大学文学研究科より出版されている『コミュニケーション紀要』に「メディア論再考」という論文を発表した。これは、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』の議論の背後にあるマーシャル・マクルーハンのメディア論を扱ったものであり、特にその卓越したナショナリズム論の背景に、アメリカの産業社会の進展があることを論じた。これは、ナショナリズムとメディアの関係を「産業」という媒介項によって結びつける点で、本研究の基底ともなる視座である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が課題とする社会現象は、(α)戦後から1960年代にかけてのオートメーション技術の導入の実際といった産業技術の変容と、(β)経営学や情報学、「ビジネス」をめぐる知の普及といった言説の変容によって構成される。 (α)について、前年度の研究を通じ、生産管理や経営管理を含む管理技術の進展という観点からオートメーション技術を位置づける必要性がより明確になった。同時に、戦前における科学的管理法および「能率」をめぐる諸実践の重要性を再認識し、戦後におけるオートメーション技術を考察するために、戦前における「能率」や産業合理化についての研究をすすめる必要がより明らかになった。このため、当初の計画よりも戦前の産業技術についての研究により多くの労力をかけ、戦後の産業技術については当初の想定よりやや遅れている。 (β)について、メディア論についての理論的研究を通じて産業社会の成立と高度化についてのより深度をもって考察するという課題が浮上した。大量生産に通ずる機械的再生産の技術は、印刷技術を原型としているゆえ、ナショナリズムと深く関わる。同時に、20世紀の産業技術の進展は、そのような従来の機械的再生産を超えて、新しい局面に入りつつある。すなわち、大量生産を通じて生じる量の増大に対して、生産・流通・消費といったさまざまな局面における「管理control」が重要な問題となる。産業技術における管理の問題は、従来の産業社会学や情報学や経営学を結びつける鍵となりうる。この点で、当初の予測を上回る問題の広がりに遭遇し、今後のさらなる成果が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の研究成果を踏まえ、本年度は対象を拡げ、研究のさらなる深化をめざす。 第一に、戦後、とくに高度成長期にあたる1960年代の産業技術の展開を探究する。特に隣接する領域として、月賦販売の拡大や、保険や証券などの市場の拡大に注目していく。これらは、さまざまなかたちでミドルクラスの人びとの生を「数」によって記述し、計算し、管理されるものへと変容していく。居住や家族形態だけにとどまらないライフスタイルの変容を、「マイホーム」と呼ばれる現象として考え直すという課題に取り組んでいきたい。 第二に、科学的管理法の導入や産業合理化の進展といった戦前の産業技術の変遷をあらためて探究する。本研究が対象とする戦後社会を理解するためにも、戦前との連続を改めて踏まえる必要がある。戦前の科学的管理法の導入の歴史についてはすぐれた先行研究があるが、「能率」の概念をネーションやナショナリズムといった主題と結びつける研究はいまだ十分ではない。だが、戦時体制の構築は第一次大戦以来の「能率」をめぐる技術や知の広がりのなかで可能になったものである。 以上の観点から、戦前から戦後にかけての「能率」や「産業合理化」に関して、大阪、京都、神戸といった関西圏、また呉海軍工廠を有した広島の大学図書館や資料館への調査を実施する。また、これら産業技術の問題に関して同時代的な経験を有する海外の事例(イギリス、アメリカ)の調査研究も行なう。 以上の歴史的研究と「能率」や「管理」をめぐる理論的研究を通じて、研究課題「戦後日本における産業技術の高度化とナショナリズムの変容に関する歴史社会学的研究」の成果となる学術論文の執筆、発表をめざす。
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Research Products
(3 results)