2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H06641
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大谷 聡 日本大学, 理工学部, 助手 (40755542)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | AdS/CFT対応 / 共形代数 / 繋絡作用素 |
Outline of Annual Research Achievements |
1次元量子力学には様々な厳密に解ける模型が存在しますが、これら厳密に解ける模型は往々にして高い対称性を有しており、その背後にはLie環の表現論の構造が隠れていることが昔から知られています。1990年代後半、G. A. Kerimovはある種の高い対称性を持った厳密に解ける量子力学の模型では、散乱行列(反射・透過係数)が対応するLie環の繋絡作用素に他ならないことを看破しました。この方法ではSchrodinger方程式を解かなくても、表現論の知識だけで散乱行列が簡単に計算できます。一方、1970年代から共形場理論の2点相関関数は共形代数の繋絡作用素に他ならないことが知られています。本研究の目的は、G. A. Kerimovの開発した量子力学的散乱行列のLie代数的算法を任意次元の共形場理論へ応用し、これまで計算が困難であった有限温度共形場理論の運動量表示2点相関関数に対して対称性に基づく簡便算法を開発することにあります。
以上の動機の下、平成27年度では手始めに簡単な1次元および2次元の有限温度共形場理論をAdS/CFT対応を用いて調べました。まず、Rindler座標と呼ばれる座標系でAdS時空を記述すると、AdS時空の境界はRindler wedgeと呼ばれるMinkowski時空の一部分だけを表し、双対な共形場理論はこのRindler wedgeに住むことになります。そして、この共形場理論は通常のUnruh効果の時と同じ理屈で有限温度になります。このRindler座標系でのAdS時空のKillingベクトルおよび2点相関関数が繋絡作用素であるという2つのことを用いることで、1次元および2次元の場合だけですが、共形対称性の帰結として運動量表示2点相関関数はある漸化式を満たさなければならない、ということが言え、この漸化式を解くことで相関関数が決定できる、ということが示せました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究当初はAdS/CFT対応を用いて有限温度共形場理論を調べるには、解析の難しいブラックホール背景時空を調べなければならないと思い込んでいましたが、Rindler座標系でのAdS時空でも同様に有限温度共形場理論を調べることができることに気付き、格段に研究の見通しが良くなりました。本研究の最終目的は任意次元の有限温度共形場理論に適用できる運動量表示2点相関関数の計算法を開発することにありますが、これに向けて概ね順調に進展していると言えます。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず任意次元のRindler座標系でのAdS時空の対称性およびその対称性を生成するKillingベクトルを調べ、次にその対称性の表現空間を構成し、最後に繋絡作用素を用いて任意次元の有限温度共形場理論に対して有効な運動量表示2点相関関数の満たすべき漸化式を導出する、という方向で研究を進めていく予定です。
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Research Products
(4 results)