2015 Fiscal Year Annual Research Report
ベシクル内複数種コロイド粒子の秩序化と膜変形の協同
Project/Area Number |
15H06653
|
Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
夏目 ゆうの 日本女子大学, 理学部, 助教 (10706831)
|
Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
Keywords | ソフトマターの物理 / 生物物理 / ベシクル / コロイド粒子 / 排除体積効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、異なる種類のコロイド粒子を様々な比率で内包するベシクルを作成し、内部粒子の自発的な秩序形成と、粒子と相互作用する柔らかい膜の変形挙動を同時に観測できる系を構築し、解析することを目的としている。異なる種の粒子間、および粒子と膜の間に生じるこみあい効果(排除体積効果)に起因する、多彩な細胞膜変形の再現が可能な人工細胞モデルの構築を試みる。平成27年度は、内部粒子の自発的な秩序形成の観察と、秩序形成を示すベシクルと同組成のベシクルに対する膜変形の誘起を行った。直径がマイクロ及びサブマイクロメートルのポリスチレンビーズを、DOPCからなるベシクルに内包するために、油中水滴遠心沈降法を用いて調製を行った。調製後に数時間以上静置することで、特定の大きさの2種の粒子を内包したベシクルにおいて、自発的な秩序形成が観察された。次に、この粒子内包型ベシクルに高張液添加という物理的刺激と膜分子添加という化学的刺激の2種類の摂動を与え、膜変形の誘起を試みた。両者の刺激について、濃度など添加条件の最適化を試み、化学的刺激による膜変形の誘起に成功した。その過程で、内部粒子の密度とベシクル変形過程が相関しているという予備的な実験データを得た。内部粒子の秩序形成と膜変形のこれらの結果を組み合わせることで、本研究の目的である内包物の秩序形成とベシクル膜変形が共に生じ、協同する系の構築が期待できる。また、関連する研究成果として、単種のコロイド粒子をベシクルに閉じ込めた系において、内部粒子の秩序形成と膜変形の協同現象を実験的に見出し、排除体積効果から考察した結果を論文(PloS ONE誌)にて報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内包物の秩序形成とベシクル膜変形が協同する系の構築に向けて、上記のように特定の条件で粒子をベシクルに閉じ込めた場合に自発的な秩序形成が生じ、膜変形を誘起した際に膜変形と内部粒子の密度が相関するという重要な知見が得られた。実験手法においても、サイズの異なる種々の粒子を内包したベシクルの調整手法、膜変形を誘起する手法ともに確立した。これらの知見と手法を用いて、平成28年度には粒子偏在下において膜変形を誘起し、蛍光顕微鏡観察により、内部粒子の挙動と膜変形を同時に追跡することで、本研究の目的が達成可能と見込まれる。以上のことを踏まえると、本研究はおおむね順調に推移している。加えて、特定の大きさの2種の粒子を内包したベシクルにおいて得られた秩序形成は、従来報告されていない現象であった。この現象に関しても、各種粒子の配置を蛍光強度分布から解析し、粒子集団のふるまいを統計物理学に基づき考察することで、ベシクルという内部粒子にとって狭い閉空間内における秩序形成のメカニズムの解明が期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、1)内部粒子の秩序形成メカニズムの解明2)内部粒子密度と膜変形の相間関係の解明3)内部粒子の秩序形成と膜変形の協同現象の発現を目指す。1)については、現在までの進歩状況で述べた解析と考察を行う。2)については、内部粒子の総密度、サイズの小さな粒子の密度、サイズの大きな粒子の密度と複数のパラメーターがある。まずは、個数が少なくとも総密度に対してより影響を及ぼすサイズの大きな粒子を様々な密度で内包したベシクルの調製及び膜分子添加による膜変形の観察を進める。密度パラメーターを変化させることで、内部粒子密度と膜変形の相間を実験的に明らかにする。3)については、既に得られた秩序形成を示す組成でベシクルを調整し、数時間静置した後に膜分子を添加することで、内部粒子の秩序形成と膜変形の協同現象を発現させる。なお、1),2),3)は並行して進めることが可能であり、時間的な損失を押さえて研究を進めることができると見込まれる。
|
Research Products
(9 results)