2015 Fiscal Year Annual Research Report
監視社会における統治と身体管理の変容――生体認証技術の歴史社会学
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15H06665
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Research Institution | Meiji Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
高野 麻子 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (90758434)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 監視社会 / 身体 / 生体認証技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、指紋、静脈、虹彩、顔などの身体的特徴から個人を識別する技術が世界的に普及するなかで、近代から現代に至る統治の変容と身体管理のあり方を、こうした生体認証技術の使用を軸に描き出すことを目的としている。これを達成するにあたり、研究期間内に三つの作業を予定しており、初年度ではそのうちの二つの作業を実施した。 一つ目は、これまで個別のテーマで研究成果を発表してきた生体認証技術の歴史的変遷を、近代的統治の物語として組み立てなおす作業である。これは、具体的に次の三つのプロセスがあり、(1)指紋法を含む個人を識別する技術が、近代的統治にいかなる役割を果たしてきたのかを整理する作業、(2)植民地統治や国民国家形成期に誕生したさまざまな統治の技法が個別に果たした役割の考察、(3)これら二つの考察を結合させることで、個人識別の技法が近代的統治において果たした役割を明らかにすることである。これら一連の作業がほぼ終わり、その成果は、研究者仲間が主催する研究会で口頭発表するとともに、2016年2月にみすず書房より出版された単著(『指紋と近代――移動する身体の管理と統治の技法』)の序章と終章のなかにまとめた。 二つ目は、現代における生体認証技術の技術的特徴とそれらが使用される場面、目的を明らかにする作業である。これは次年度も引き継ぐ作業であり、本年度は多様化する現代の生体認証技術の種類やその用途の違いにかんする資料を収集する作業を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するために、二年間で三つの作業を予定しており、初年度は「交付申請書」に記載した計画通り、以下の二つの作業を行った。
(1)これまで個別のテーマで研究成果を発表してきた生体認証技術の歴史的変遷を、近代的統治の物語として組み立てなおす作業。 (2)多様化する現代の生体認証技術の特徴とそれらが個別に使用される場面・目的を明らかにするために、関連する資料の収集。
「研究実績の概要」欄に示したとおり、これらの研究成果は口頭発表や著書の一部としてまとめており、今年度の研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、昨年度の二つ目の作業(現代における生体認証技術の技術的特徴とそれらが使用される場面・目的を明らかにすること)を引き継ぎ、各々の生体認証技術の特徴や使用場面・目的を整理する。そのうえで三つ目の作業に取り組むことになる。 具体的には、生体認証技術の個別の特徴と使用目的を明らかにする二つ目の作業で得られた事例を軸に、生体認証技術を直接テーマとする研究はもとより、監視社会論、リスク社会論、個人化論、情報社会論といった現代社会論を参照しながら、生体認証技術を必要とする社会構造を明らかにする。その際、利便性や効率化に加え、セキュリティの確保やリスク対策といった言葉の表面的な意味だけを捉え、受け入れるのではなく、個人を識別することによって守られる「セキュリティ」の内実を丹念に考察する必要がある。 これにより、現代における身体管理の変容とそこに内在する暴力を分析することが可能となり、本研究の最終的な目標である近代から現代に至る統治の変容を歴史社会学的に描き出すという最終作業へと接合する道筋を準備することになる。 本年度の作業は、文献調査を中心に実施するが、適宜、研究者仲間で組織している研究会で報告し、アドバイスを受けたり情報交換をすることで進めていく。そのうえで、年度末には研究成果をまとめた論文を発表する予定である。
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Research Products
(1 results)