2015 Fiscal Year Annual Research Report
多様な性自認を肯定する脱病態的性別違和特例法の確立
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15H06681
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石嶋 舞 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (80758053)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 性別違和 / オランダ家族法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は2度のオランダ渡航を行い、2014年春のオランダ家族法改正につき情報収集を行った。12月~1月の渡航においては、SOGI関連の資料を集中的に取り扱うIHLIA(アムステルダム市立図書館内施設)においてオランダの身分登録方法、及び親子関係法制に関する資料収集を行ったほか、ストラスブール国立大学図書館において、日本と同様の性別取扱い変更要件を持つ欧州10カ国の性別取扱い変更手続(裁判所介入の有無、及びFtM/MtF統計)を調査した。3月の渡航においては、オランダにおける法的性別取扱い変更につきFtMが子を出産した場合の親子関係の確定に関して、アムステルダムにてSOGI関連を専門に扱うGerald Janssen弁護士にヒアリング調査を行ったほか、旧オランダ民法が法的性別取扱い変更に課した要件につき、その立法趣旨に関して、家族法改正に携わるA.J.M. Nuytinck教授より情報提供を受けた。国内法制に関しては、性別関連規定を横断的に検索・分類し、その使途を把握したほか、文献を収集し現行特例法が性別取扱い変更の要件とする医師の診断書の獲得につきそのプロセスを精査し、特例法立法時に説得的とされた性別取扱い変更の申立人の病理性が現状いかに同要件に担保されているかを調査したほか、性別違和を抱く未成年者の状態が調査された先行研究および性別違和を抱く者との接触等を通して、特例法要件が特に若年者に対して持つ規範性につき調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
性別違和症の診断を要件にした上でも法的性別取扱い変更が先天性ないし病理性(ここでは性別違和に特徴的な状態像に本人の状態が一致することを指す)に完全にはに依拠しない旨の仮説を立て、欧州圏において日本と同様の性別取扱い変更要件を課す10カ国につき性別取扱変更を行ったFtM/MtFの割合につき調査を行い、ジェンダー平等指数との比較を試みた。性別取扱い変更手続において男女を区別した統計が採られていなかったほか、医療機関の受診状況の統計をとっても必ずしも国内の性別取扱い変更状況を反映しないことが明らかとなったため、以上の調査は頓挫したが、医療機関における性別違和症の診断基準を精査することによって以上の仮説を裏付けることができた。これに伴い、2016年度に行う予定であった性別違和の取扱い状況の調査を先行して行い、その脱病態化傾向を認識することができたこと、ならびに国内において診断要件が本人の病理性を担保しないことが確認されたこと、これに従って既に病理性に基づかない性別取扱い変更がなされてきた可能性があること、ならびに身分を規律する法の社会規範性を性別取扱い変更手続にも見出すことが可能と考えられることから、脱病態的な性別取扱い変更要件の必要性につき、内外からこれを支持できることが把握された。オランダ民法の改正に伴い生殖能力を残したまま性別取扱い変更が可能となったことを受け、改正後の親子関係法制及び身分登録方法の調査が必要となったが、現在は資料の収集が完了した段階にある。その他国内法制に関し、性別関連規定を横断的に検索した結果に関しては、その性別条項の使途を分類・把握するに至り、これを素地として分類内容の精査と性別取扱い変更時の各使途分類における影響につき今後分析していく。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度前半は前年度調査の研究報告に充て、オランダ民法の性別取扱い変更条項の要件改正と時期を同じくして行われた同国家族法制及び身分登録法制の改革につき、特に性別取扱い変更と関連する親子関係の確定基準ならびに性別取扱い変更を行う本人及びその子の身分事項の登録方法に関して、前年度行った調査に基づき紹介した上で、性別取扱い変更にかかる他法への影響とその調整方法を明確化するための比較考察の対象とする。また前年度行った各種法の横断的な性別関連規定の調査結果を用い、性別情報の取得方法・取得者・使途別に分類した上で、法に内在する身分事項としての性別情報の影響及びその程度を分析し公表する。これに国内法制における身分事項の管理方法の参照を加え、特例法に基づき性別変更の許可が出た後の性別の登録及び当該情報の出力方法につき具体的提案を行う。前年度行った性別違和の脱病態化傾向の調査につき、特に性別違和を抱く者との面会にて得た若年層の孕む当事者性獲得の問題と合わせて公表する。本年度新たに行う調査としては、上記に掲げた性別情報取得者・手段にかかる調査のほか、自己決定の文脈での性別取扱い変更に関して欧州人権裁判所判例の調査を行い、国内における性別取扱い変更を、身分事項の変更手続として性別違和に伴う困難に対する支援・保護と区別して提示した上で、性別取扱い変更に要求されるべき本人の選択不可能性の程度・身分事項としての性別の保持すべき安定性に言及した上で、これらの調査を総括し、新たな性別取扱い変更要件の提言を目指す。
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