2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H06710
|
Research Institution | Asahi University |
Principal Investigator |
小林 祐紀 朝日大学, 法学部, 講師 (40761458)
|
Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
Keywords | 公法学 / 憲法 / 立法裁量 / 司法審査 / 憲法訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、立法裁量に対する裁判所による司法的統制という問題について、裁判所による実行可能で、かつ人権保障に資する新たなアプローチを構築するという見地から「準手続審査」に関する議論を展開させるという目的の下で行われてきた。 初年度にあたる平成27年度は、研究計画書に沿って、まず、準手続審査の抱える問題として指摘される「立法府の優位性」(権力分立)について検討した。従来このような問題については、権力分立に由来する「対等な機関への尊重」を根拠に裁判所による立法手続の審査を否定するのが通説的見解であったが、この見解の前提と準手続審査が両立し得るものかについて日米の判例学説等を検討した。そして、純粋に議会の内部事項を除き、法律制定の際に立法過程を裁判所が審査するということは、議会の内部事項に介入するものではなく、また権力分立に反するものではないため「対等な機関への尊重」と準手続審査は適合的であるとの結論を導いた。なお、この研究成果は比較憲法学会で報告した。その内容は『比較憲法学研究』に投稿予定である。 次に、わが国における準手続審査の適用領域や適用条件の画定を試みる前提として、準手続審査が従来の司法審査(とりわけ実体審査)との関係で如何なる根拠を以って正当化できるものかについて検討した。具体的には、実体審査の論拠が準手続審査にも妥当するのか、さらには実体審査への批判が準手続審査の場合には緩和されるのかといった問題である。前者については、実体審査を支える「法の支配」(Lon.L.Fuller)や「認定のルール」(H.L.A.Hart)などを素材に、後者についてはJeremy Waldronなどを手掛かりに理論的観点から考察をし、準手続審査は実体審査の論拠を援用しつつ、その難点を緩和することもできるとの結論を導いた。なお、この研究成果については『朝日法学論集』に投稿予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度にあたる平成27年度の研究については、研究実績の概要にも記載したように、研究計画書に沿った形で概ね順調に進展しているといえる。その理由としては以下の通りである。 まず、研究内容についてその遂行上若干の変更修正を行ったものの、初年度に予定していた研究課題を概ね検討することができた。研究遂行上、その内容の変更修正を行った理由としては、当初アメリカ以外の諸外国の裁判例も踏まえたうえで準手続審査の適用領域やその適用条件を画定する予定であったが、それらをも含めた場合には本研究の対象が広汎になり過ぎ、各論点の十分な検討が行えないと思慮したからである。もちろん、このような変更によって本研究の当初の計画が大きな影響を受ける訳ではない。 また、研究内容の成果は、学会報告(比較憲法学会)をはじめ、各種の研究会で報告することができ、その際には他の研究者から様々な意見に接する機会を多く持つことができた。平成27年度の研究内容の成果物(論文)については、年度内の刊行には至らなかったものの、『比較憲法学研究』や『朝日法学論集』に平成28年度のはじめに投稿予定であるため、研究成果を残すという意味でも概ね当初の目標を到達することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の次年度にあたる平成28年度の研究については、研究計画書に沿って以下の2点を重点的に進めていく。 まず、準手続審査を適用する裁判所が志向している民主政観を明らかにし、当該審査手法が一定の民主政観を促進する意義を検討する。その目的は、準手続審査が近年アメリカで注目され、継続的に適用される傾向にある政治状況を析出するとともに、当該審査の実施を通じて裁判所が如何なる価値を促進し、そのことは如何なる観点から正当化されるのかを論じることにある。なお、ここで得られた研究の成果は朝日大学の紀要である『朝日法学論集』に投稿する予定である。 次に、平成28年度は博士学位論文提出に向けた最終調整を行う年度であるため、研究上極めて必要な資料の収集や、研究内容に関してアメリカの研究者との意見交換をするための海外出張を予定している。 以上までの研究の蓄積、さらには海外出張での情報収集を踏まえて、平成29年1月に博士学位論文を慶應義塾大学に提出できるよう、残りの時間を執筆作業に充てる。なお、執筆活動においては、上記の研究内容に加えて、準手続審査をわが国の現実の立法過程の下で行う場合に、どのような形で適用されることになり、また適用し得るのかの検討を補論として加えることで、理論と実践の両面で意義のある学位論文となるよう努めたいと考えている。
|
Research Products
(1 results)