2015 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半の渡欧日本知識人達の人的ネットワーク再考
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15H06721
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
杉淵 洋一 愛知淑徳大学, 教育部門・センター, 講師 (00758138)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 比較文化 / 比較文学 / 日本文学 / 社会学 / 社会思想史 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
1900年から1930年前後にかけて、フランスを中心としてヨーロッパに渡った日本の知識人たちの渡航先における当地の人たち、ないしは邦人同士の交流と帰国後におけるその関係の継続の有り様について、関連人物が遺した書籍や、図書や文学資料を所蔵する施設に保管されている書簡、日記、その他の遺品から検討することによって、これまでの美術、文学、法学、医学等、限定的な領域でのみ考察されていたきらいのある邦人が築いた人的ネットワークを、より複合的(クロスジャンル)、総合的に描き直し、日本の近代化の過程をこれまでにはない視点から描き出す試みが本研究の根幹となる部分である。平成28年度に予定しているヨーロッパでの現地調査に備え、平成27年度は、研究の進展を予期させる邦語・フランス語の書籍の購入、精読に加えて、日本国内の関連施設を訪れての所蔵資料の調査(内容についての精査)を行うとともに、学芸員等の資料管理者からの資料についての情報提供などを受けて、これまでは人間関係の有無が曖昧であった人物たちの直接の交流が記述された文章などを発見するとともに、今日まで人間関係が明らかになってこなかった経緯について把握することが出来た。また、新渡戸稲造のジュネーブに残存する国連事務局長時代の資料については、本年度の盛岡における調査によって、具体的な資料の所蔵場所、大まかな所蔵状況について情報を入手することに成功した。芹沢光治良、林芙美子等の渡欧日本人についても、遺族や資料を管理する立場にある方々の情報提供や証言より、平成28年度の現地調査の際の目的地や調査対象資料についての絞り込みを行うことが出来た。また、本年度の調査の過程で、まったく予期していなかった人間関係も浮かび上がってきており、当初の予定よりも広範な人的ネットワークが、日本人と現地の人々の間には構築されていたことが明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、日本国内に滞在しながら入手できる研究課題に即した日本語、およびフランス語で書かれた関連人物についての書籍や、関連人物の著作の購入、内容についての精査を行った。黒田鵬心『巴里の思出』所収の有島生馬の文章等からは、有島生馬と当時のフランスにおいて親日家として知られていたアルベール・メーボンとの具体的な交流のあとを確認することが出来た。また、フランス人の手によって(フランス語で)書かれた日本の美術や文学についての書籍の調査からは、石川三四郎、松尾邦之助等といった人物たちが、フランスにおいてどのような現地の人々と交流を持ち、どのような質のグループを形成していたのかについて、ある程度の見通しを立てることが出来た。入手が困難な書籍に関しては、京都大学図書館、愛知大学図書館等に赴いて調査を実施した。そして、より具体的な人間関係を明らかにするために、有島生馬記念館、北九州市立文学館、新宿歴史博物館、日本近代文学館、芹沢光治良記念館、盛岡先人記念館、花巻新渡戸記念館、軽井沢高原文庫、鎌倉文学館、大佛次郎記念館、あきた文学資料館等の施設を訪れて、研究課題に関連する資料、主に新渡戸稲造、有島生馬、芹沢光治良、林芙美子、小牧近江等の資料についての閲覧、並びに内容について調査を行った。これらの施設においては、特に渡欧した日本人、そしてその日本人たちと交流を持ったヨーロッパ人たちの日記や書簡などを中心にして、当時の洋の東西を股にかけた人間関係の大きな見取り図を描くように心がけた。訪問の際には、同時に職員の館長や学芸員の方々と情報交換を行い、私自身の知識の欠けている部分や把握していなかった情報を補填する作業も同時におこなった。更に(可能であった場合には)、平成28年度の現地における調査を円滑に行うために、フランスに所在する関連施設との連携の有無、これまでのやりとり等についても話を伺った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度に国内で行った調査の結果をもとにして、実際にヨーロッパに赴き現地調査を行う。調査時期に関しては、8月から9月の間の3から4週間程度を予定している。新渡戸稲造が国際連盟の事務局次長を務めていた際に居住していたスイス・ジュネーブの邸宅跡地、自宅に石川三四郎、椎名其二といった日本人たちを寄宿させていたフランス人の名を冠して南仏ドルドーニュ地方ドンム村に所在するポール・ルクリュ記念館、渋沢栄一や本野一郎などと深い交流のあったアルベール・カーンの功績を顕彰する目的で建てられているパリ郊外のアルベール・カーン美術館などを訪れ、施設の内部に残されている日本人と当地の人々との交流を記した資料の閲覧調査を行うとともに、施設関係者から資料、そして今日までの影響についての補足説明を受けたいと考えている。余力があれば、芹沢光治良、松尾邦之助などの滞欧期間中の足取りについても手を伸ばしたい。また、パリ市内にもまとまった日数で滞在し、国立フランソワ・ミッテラン図書館、パリ日本文化会館、パリ国際都市日本館などに所蔵されている関連資料・書籍の閲覧調査を行うとともに、当地で長期間にわたって日仏親善などの目的で活動を続けている個人や団体からの情報収集を行うことについても予定している。このヨーロッパにおける現地調査の終了後には、調査の過程で得られた資料や明らかになった情報や人々の結びつきを体系化しつつ、更なる日本国内における調査が必要となった場合には、関連施設に足を伸ばして調査を行うとともに、関係者の遺族の方々からの聞き取り等の作業も同時に行いたい。その一方で、昨年度からの調査の継続として、本研究についての関連資料の入手と精読の作業を恒常的、かつ丹念に行い、年度末までに、研究対象者たちが織り成した人的なネットワークを一つ、ないしは複合的なまとまりとしての提起を行う算段である。
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Research Products
(2 results)