2015 Fiscal Year Annual Research Report
『河海抄』を中心とした『源氏物語』古注釈書・享受資料に関する基礎的研究
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15H06783
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
松本 大 奈良大学, 文学部, 講師 (30757018)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 河海抄 / 四辻善成 / 注釈 / 古注釈書 / 源氏学 / 享受 / 注釈史 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請時に提出した研究概要、【1】『河海抄』の伝本調査と注釈内容の分析、【2】四辻善成の源氏学の背景・形成・展開・伝播に関する考究、【3】『河海抄』以外の古注釈書・享受資料に関する検討、以上の三項目ごとに本年度の成果を述べる。 【1】に関しては、本年度は岡山大学附属図書館・大洲市立図書館・今治市河野美術館等に赴き、『河海抄』の伝本や他の享受資料の基礎的調査を行った。また、マイクロフィルム・紙焼写真による調査についても、主に国文学研究資料館の所蔵資料をもとに、当初の計画通りに進めた。天理図書館の資料については、本年度だけでは十分な調査が行えなかったため、次年度にも継続して赴く予定である。注釈内容に関しては、巻十五に関しての基礎的な検討を終えたものの、巻十六・巻十七に関しては検討が遅れている。これは、巻十五の冷泉家時雨亭文庫蔵本が紹介されたことと関連し、当初の予定を変更し、巻十五への調査をより重点的に行ったためである。この成果は、来年度に論文発表の用意がある。 【2】に関しては、本年度は特に源氏学の展開・伝播の解明に力点を置き、『原中最秘抄』との比較を中心に研究を行った。『原中最秘抄』の行阿説に悉皆的な調査を加え、二条良基周辺に存在していた源氏学の諸相について再検討を試みた。この結果、行阿説が行阿独自説のみで成り立っているわけではないこと、『河海抄』との密接な影響関係を想定すべきこと、以上の二点を明らかにした。この成果についても、すでに論文化しており、次年度の刊行が決まっている。 【3】に関しては、一条兼良『花鳥余情』の読解方法への再検討、及び、宗祇『伊勢物語山口記』に関する基礎的調査をそれぞれ施した。これらは次年度も継続して取り扱う課題であり、適宜学会発表や論文発表によって成果を公開していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【1】に関して、当初の予定では一年目に巻十六・巻十七までも分類検討の範囲に含めていたものの、前述したように遅れている。ただし、基幹となる部分に関しての調査は既に実施しているため、研究計画を変更するほどの大幅な遅れではない。この点は、次年度の研究とも連動させながら、より精密な検討を目指すこととする。 なお、各地の所蔵先への調査に関しては、ほぼ順調に調査を設ける機会が得られ、その結果を反映することで着実に研究の精度を上げることが出来たと思われる。 【2】【3】に関しては、おおむね当初の計画通りに遂行することが出来た。また、次年度以降にも継続して検討すべき課題が両者ともに見つけることが出来た。これについては、本年度の成果を基に更なる研究の深化を目指すことが可能と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度についても、前述の【1】~【3】ごとに研究を推進していく。 【1】に関しては、一年目に引き続き、各地の所蔵先に赴き、基礎的調査を加える。二年目は、主に天理図書館・岩国徴古館等に足を運びつつ、並行して注釈内容から諸伝本の系統分類を行う。 系統分類を施す巻としては、巻二十を対象の中心とする予定である。巻二十には奥書が施される場合が多くあるものの、奥書と内容の連動性については、『河海抄』においては未解明のままにある。奥書の信憑性を検証することによって、現存する諸伝本間の関係を浮かび上がらせ、得られた成果を諸伝本の分類整理に還元する。本年度に赴くことが出来なかった所蔵先については、次年度の早い段階で調査に赴くこととする。 【2】【3】に関しては、当初の計画通りに研究を推進する予定である。【2】【3】の課題は、通時的な問題として共通する部分が多いため、計画の進度や研究の深化によっては統合することも視野に含める。内容としては、連歌師たちの『源氏物語』享受を明らかにすべく、一年目に引き続き宗祇を中心に取り扱うこととする。一年目の成果を基に、宗祇の手による複数の連歌論書や源氏注・勢語注との更なる比較検討を通して、その様相を把握する。
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Research Products
(1 results)