2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H06845
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
遠藤 志保 北海道博物館, 研究部, 研究職員 (90761635)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | アイヌ文学 / 口承文芸 / 伝承 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、比較分析に用いるための口承文学テキストならびにデータを集めることを目的として、未公刊テキストの翻刻・和訳といったテキストの調査・整備を計画した。 実施した研究作業としては、分析対象としている未公刊テキスト「虎杖丸の曲(kutune sirka)」の画像取り込みならびに翻刻作業、すなわちデジタルカメラ等による画像データ作成とパソコンでの打ち込み作業を行い、口承文学テキストのデジタルデータ化を行った。このような口承文学テキストのデジタルデータ化は、検討を行うべき個所の検索や比較を効率的に行う際には必須の作業である。そのため、平成27年度に口承文芸テキストのデジタルデータ化によって、次年度に予定しているテキストの本格的な分析をスムーズに進めるために必要な作業を行えたと言える。 また、分析対象としているテキスト「虎杖丸の曲(kutune sirka)」の伝承者のひとりについて調査を行い、書誌情報を若干追加することができた。当初の計画では伝承者についての調査は平成28年度に行う予定であったが、別の研究との兼ね合いから、平成27年度に調査の一部を行ったものである。口承文学の流動性を考えるにあたっては、テキストを誰から聞いたかという伝承関係を捉えることによって、ある語りの特徴が、伝承者のあいだで共通している特徴か、それとも伝承者個人の特徴かを考察する際に必要な情報となるため、このような調査ができたことは意義深いことであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成27年度には、(1)分析対象としている口承文学テキストのデジタルデータ化、(2)分析対象としているテキストの伝承者のひとりについての調査、の2点について行った。 (1)については、「虎杖丸の曲(kutune sirka)」のうち、未公刊となっているテキストのデジタルデータ化を行った。しかし、文字がかすれている等によって判読が難解な個所等をはじめとするアイヌ語表記の細かい部分についての確認や、和訳等の作業には至らなかった。物語のストーリーそのものの分析にあたってはこうした正確なアイヌ語テキストの確定は予備的な作業であるため、次年度の研究において大きな支障はないものと判断するが、細かい言い回しの違いといった表現面の分析を行う際は、このようなテキストの確定作業は必須となってくるため、次年度も随時行っていく必要がある。 また、当初の予定としては平成27年度に行った「虎杖丸の曲(kutune sirka)」の未公刊テキストの翻刻・和訳のみならず、未公開の音声資料についても聞き起こし・翻刻作業を行うことによって、同様に口承文学テキストのデジタルデータを作成する予定であったが、平成27年度内にはその作業に着手することができなかった。 (2)については、分析対象としているテキストのひとつ「虎杖丸の曲(kutune sirka)」の伝承者のひとりについて調査を行い、書誌情報を若干追加することができた。これは平成28年度に行う予定であった調査であり、この部分に関しては、予定を前倒して行うことができている。 総合的には、今年度行う予定であった研究作業の一部を次年度に持ち越す形となっていることから、進捗状況としては遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、平成27年度には、複数の異伝が遺されていることが既に明らかになっている「虎杖丸の曲(kutune sirka)」以外のテキストについても、未公開である口承文芸テキストの翻刻・和訳ならびにデジタルデータ化を行う予定であったが、実際に行った初年度の成果としては「虎杖丸の曲」のデジタルデータ化にとどまっている。 そこで、研究計画どおり、「虎杖丸の曲」以外のテキストについて翻刻作業を平成28年度にも引き続き行うことにすると、テキスト分析作業の進捗に影響を及ぼす可能性が考えられる。そのため、研究対象とするテキストを当初考えていた複数の物語から「虎杖丸の曲(kutune sirka)」のひとつに絞ることで対応し、平成27年度の成果として得られたテキストデータを用いた、「虎杖丸の曲」の異伝テキストどおしの比較分析を平成28年度には中心的に行う。 また、テキスト分析と並行して、それぞれのテキストの伝承者について、誰から物語を聞き覚えたのかといった伝承関係について調査する。 平成27年度は、分析対象としているテキスト「虎杖丸の曲(kutune sirka)」の伝承者のひとりについて調査を行い、書誌情報を若干追加することができた。平成28年度も引き続き、「虎杖丸の曲」の伝承者の情報ならびに伝承関係について、文献調査・現地調査の両面からアプローチをし、調査結果をまとめる。 さらに、こうした伝承関係とテキスト分析とによって、それぞれ得られたデータから、伝承経路とストーリー展開・表現との相関関係についても分析する。
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