2015 Fiscal Year Annual Research Report
メタマテリアルを用いたナノ流体デバイスによる超高感度赤外分光法の創成
Project/Area Number |
15H06856
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
Le ThuHacHuong 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 国際特別研究員 (60752144)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 赤外分光 / マイクロ・ナノ流体デバイス / メタマテリアル / 光熱反射測定法 / ラベルフリー検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、赤外光応答のプラズモニック・メタマテリアルをナノ流体デバイスに導入することにより、新たな赤外分光デバイス構築を作り上げ、超高感度な赤外分光法(単一分子レベル)を開発することである。近年、医療診断分野において、生体内分子の機能解析をすることにより、がんの早期診断や個別化治療に有用なバイオマーカーの探索を目指すプロテオミクスやメタボロミクスの研究が盛んに行われる。そのため、標的単一細胞の組織、または単一細胞から採取したタンパク質等をラベルフリーで定性、並びに定量する方法が要求される。赤外分光法は分子の化学結合や構造情報を与え、極めて重要なラベルフリー分析法の一つであるが、生体分子への応用は難題を抱えている。それは、従来の赤外分光法の抵感度に起因すると考えられる。また、水の強い吸収による妨害を受けるため水溶液中での生体分子の解析が困難である。 そこで、本研究は、赤外領域で動作するメタマテリアルをナノ流体デバイスに集積化することで、電場増強効果により赤外吸収を向上させる。更にナノ流体の特徴である数十nm空間での分子捕獲操作と組み合わせることにより、水の吸収の影響を極限まで低減させ、世界初めて単一分子レベルの超高感度赤外分光法の実現を目指す。本手法が成功すれば、革命的な分析ツールとして、細胞やタンパク質等をインタクトな状態かつリアルタイムで構造機能解析が可能となり、医療診断やバイオマーカーの探索研究へ大いに貢献できる。 この提案を実現するに向けて、下記の3つの研究目標を定める。①プラズモニック・メタマテリアルを集積化するナノ流体デバイス構築の実現②光熱反射測定法(Photothermal reflectance measurement)による赤外吸収検出方法の開発 ③単一分子の赤外吸収分光法の実証
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、主に上述した課題①と②を実証した。具体的に、研究課題①については、中赤外領域で動作するプラズモニック・メタマテリアルが集積化されるナノ流体デバイスの設計・作製方法を確立した。中赤外領域で動作するデバイスであるため、その領域における高い透過率を有する基板を取り入れる必要がある。フッ化カルシウムは紫外から中赤外領域まで幅広い透過帯を持っており、他の赤外光透過材料に比べて水に対する耐性が優れたため、本実験に採用した。デバイス作製プロセスとしては、一枚の基板上にマイクロ・ナノ流路を電子ビーム描画及び紫外光描画技術等及びエッチング技術を用いて加工した。別の基板上にターゲットとした検出物質に合わせ、プラズモニック・メタマテリアルナノ構造体を設計・作製した。本研究では、接着剤等を使用せず、フッ化カルシウム界面の分子間相互力による接合技術を確立した。そのために、ナノ流体デバイス(チャンネルの深さ及び幅)を十nmの精度で制御することに成功した。 本デバイスは生体分子分析に応用することを目的としたため、タンパク質等の代表的な官能基の吸収帯に合わせ、中赤外領域で動作するメタマテリアルに注目した。ターゲットとした分子の従来の赤外吸収帯に合わせ、その波長帯でこのような機能をするメタマテリアルを設計・加工する方法を確立してきた。 研究課題②光熱反射測定法(Photothermal reflectance measurement)による光吸収検出方法の原理検証については、これまで開発された赤外光検出器より赤外吸収を超高感に計測できる光熱反射測定法を実証した。本段階では、固定波長の可視光レーザを励起光として用い原理検証実験を行い、方法論を確立した。結果的に、光熱反射測定法を導入することで、感度及び検出限界の改善が明かとなった。また本デバイスを用い初めて検出限界の0.4アトモルの検出を実証した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で述べた現在までの進捗状況に基づいて、今後の研究では、以下の2つの研究目標を定めた。 28年度の前半:超高感度の赤外分光法の確立 ①と②で確立した成果に基づき、広帯域波長可変の中赤外QCLレーザを励起光として使用し、多成分の赤外吸収(多吸収ピーク)、即ち吸収スペクタクルを測定できるようにする。②の光学系を改めて再構成し、①で実現してきたデバイス構築もターゲットした多成分で機能するメタマテリアルナノ構造体の設計・加工・集積化に挑む。更に、波長可変の中赤外レーザを用いる時、最適なS/Nを得るために、変調周波数、波長スイープレートとデバイス内の熱拡散モデルを描き出し、これらのパラメータとS/Nの関係性について実際の実験と計算結果を比較しながら検討を行う。これにより、初めて単一分子の赤外吸収スペクトルを測定することに挑む。 28年度の後半:単一分子の赤外吸収分光法の実現 上記の結果を踏まえて、予測を基にナノ構造体を設計・製作し、検証実験を通じて、単一分子検出の可能性を検証する。具体的な分析対象は(ア)単一タンパク質分子の赤外吸収スペクトル測定の実証(イ) 抗原抗体反応によるタンパク質のタンパク質間相互作用の定量的解析を定める。これらの検証を通じて、本分光法によるタンパク質等の生体分子分子の定量・定性・構造と機能解析の可能性を検討する。
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