2015 Fiscal Year Annual Research Report
ブラックホール・中性子星連星からの正確な重力波の計算に向けた離心率低減の研究
Project/Area Number |
15H06857
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
久徳 浩太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 階層縦断型基礎物理学研究チーム, 基礎科学特別研究員 (30757125)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 宇宙物理 / 相対論 / 重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
将来的に数値相対論シミュレーションによってブラックホール・中性子星連星からの正確な重力波を計算することを目指し、正確なシミュレーションの初期条件として必要になる、軌道離心率が0.1%以下に抑えられた連星の準平衡状態を用意する手法を開発した。0.1%の根拠は、現実には離心率がほぼ厳密にゼロと考えられる連星からの重力波を解析して、中性子星を構成する原子核密度以上の高密度物質の状態方程式を正確に求めるために、十分に系統誤差を抑えられる値であることによる。今年度はそのための定式化及びコード開発からはじめ、ブラックホールが回転していない場合及びブラックホールのスピンが連星の軌道角運動量に平行な場合について、当初目標としていた0.1%以下の離心率を達成することに成功した。また、ブラックホールのスピンが傾いている場合についても着手し、開発した手法で離心率を下げられることを確認した。今後はスピンが傾いている場合にも離心率を0.1%以下に下げた初期条件を計算することがこの研究計画の目標であり、さらに将来的にはそれを用いたシミュレーションによって現実的な重力波波形を計算する。2015年9月に連星ブラックホールからの重力波が実際に観測され、今後はブラックホール・中性子星連星からの重力波も見つかると考えられる。そのとき、本研究を通じて得られるようになった重力波波形が重力波データの解析に利用され、中性子星の半径など巨視的な性質や状態方程式が天文観測によって調べられるようになると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度の計画の予定通り、ブラックホールのスピンがない場合及びブラックホールのスピンが連星の軌道角運動量に対して平行な場合について、離心率を0.1%以下に抑えた準平衡状態を計算できた。基本的には当初から想定していた定式化が適切に働き、また複数のモデルについても一様に離心率を減らすことができて、予備的なシミュレーションの結果を見る限り計算した準平衡状態あるいはシミュレーションの初期条件は信頼できそうである。さらにこの手法を、当初は2016年度に予定していたブラックホールのスピンが軌道角運動量に対して傾いている場合についても適用しはじめ、最終的に目標としている0.1%はまだ達成していないが、過去の計算に比べて一桁近く離心率を下げることまでに成功している。この点では予想以上の進展があったといえる。一方、低離心率の準平衡状態を計算するために必要な時間及び計算コストが想定していたよりやや重く、この点は不満足であるため、差し引きで概ね順調な進展と解釈する。実際に行っているのは、連星間距離を固定したときに軌道角速度及び接近速度をうまく与えて離心率を下げるため、シミュレーションを利用してその結果から妥当な軌道角速度及び接近速度を推定するという試行の繰り返しである。この際、用いている推定手法がNewton力学に基づいているため、ブラックホールがある場合には効果的に働かず、必要な試行の数が増えて計算コストが重くなっていると考えられる。論文は執筆中であるが、最近になって重力波が実際に検出され、本研究による低離心率準平衡状態を用いた重力波計算がより喫緊の課題となったため、成果公表よりも手法開発を優先している。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの方針通り、ブラックホールのスピンが連星の軌道角運動量に対して傾いている場合について低離心率準平衡状態の計算を進める。定式化は既に完成しているもので問題なさそうなので、与えるべき軌道角速度及び接近速度のより効率的な推定法を検討する。この推定法は、今までに計算したスピンが傾いていない場合についても必要であるので、それらの計算結果を元に開発する。
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Research Products
(13 results)