2015 Fiscal Year Annual Research Report
江戸時代における初期文人画の基礎的研究―中国絵画学習とその地域性について―
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15H06885
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
安永 拓世 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 企画情報部, 研究員 (10753642)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 祇園南海 / 彭城百川 / 柳沢淇園 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.祇園南海の研究を発展 申請者がこれまでおこなってきた祇園南海の研究を続け、まず、祇園南海筆と伝えられていた「山水図巻」(東京国立博物館蔵)の表現の再検討をおこなった。そのうえで、「山水図巻」が、祇園南海の真筆である可能性が高いことを指摘し、同図の表現の中に、熊野の実景に基づいた真景表現と、中国絵画学習に基づく表現が併用されていることを解明した。また、同時代に黄檗宗の僧侶である百拙元養が描いた「城崎温泉景勝図巻」(兵庫県立歴史博物館蔵)の実見調査をおこない、南海の「山水図巻」と比較し、その類似点と差異とを明らかにした。そのうえで、こうした南海の「山水図巻」に見る表現が、池大雅をはじめとする後世の文人画における真景表現にどのような影響を与え得たのか、また、南海の表現の独自性とは何なのかを検討した。
2.彭城百川の作品調査・撮影・データ整理 主に個人蔵の彭城百川の作品について、合計63件(掛軸53件、画巻1件、画帖1件、屏風1件、額5面、絵図2件)の調査をおこない、それぞれについて、全図・部分の詳細な写真を撮影し、その写真資料をもとに、作品のデータ整理をおこなった。百川の作品については、これまで、作品の悉皆的な調査が進んでおらず、また、近年は展覧会なども開催されていないため、基礎資料の収集が必須だったが、今年度の調査により、百川研究に必要な基礎資料を、ある程度のまとまりをもって集めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
祇園南海の研究については、ほぼ予定通りに進めることができた。
彭城百川の研究については、想定していた以上の数の百川作品の調査や撮影をおこない、基礎資料を収集することができたが、百川の代表的な大作群に関しては、所蔵者や寄託機関の時間的な制約から、次年度以降の調査となった。
江戸時代以前から日本に伝来する中国絵画の確認作業については、伝来経緯を示す情報が公開されているものが少ないこともあり、想定していたほどの事例を集めることができなかったが、明治~大正期の売立目録に掲載されている情報などを参考にしつつ、補足資料の収集をはかった。
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Strategy for Future Research Activity |
彭城百川の作品調査などを引き続き進めつつ、今後は柳沢淇園にも調査範囲を広げ、百川の場合と同様に、淇園の作品についても所在情報を調査し、順次、実作品の悉皆的な調査と写真撮影をおこない、百川・淇園の基礎的なデータベースとしてまとめ、整理する。
また、南海・百川・淇園が活躍した各地域において、それぞれがどのような文人ネットワークを構築していたのかについて、その作品の注文主や支援者、あるいは文学的な交流関係などを、多角的な視点から考察する。
江戸時代以前から日本に伝来していたことが明らかな中国絵画を抽出し、それらの中から初期文人画家に影響を与えた可能性が高い作例を選び、その絵画表現の類似性について検討する。さらに、初期文人画家たちが、どのような経緯でそれらを実見できる環境にあったのかについても、より具体的に検証する。
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