2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H06920
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
山口 繁生 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00752370)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 保存科学 / 文化財 / 出土木材 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工的な劣化により、現生材から出土木材と同様の化学組成を再現した擬似出土木材の調製方法開発を研究目的とする。そこで本研究では、1.針葉樹を人工的に劣化させる処理方法の検討、2.広葉樹を人工的に劣化させる処理方法の検討、3.調製した疑似出土木材と実際の出土木材の比較、を行う。27年度の研究では、1.針葉樹の人工劣化方法の検討のため、(1)現生材をセルロース分解酵素で劣化させるための前処理方法の検討、(2)セルロース分解酵素による処理方法の検討を行った。 出土木製遺物が発掘までに受けた可能性のある劣化は、多岐にわたり複雑である。しかしこれまでの研究より、出土木材の化学組成にはセルロース・ヘミセルロースの量が大きく減少しているのに対し、リグニンの減少量が少ないという特徴があることが報告されている。木材細胞壁中の任意の成分を減少させる方法としては、木質分解酵素を用いる方法が考えられる。しかし、健全な木材細胞壁における壁孔は酵素の大きさより小さく、分解酵素は内部に侵入できない。このため、健全な木材を酵素溶液へそのまま浸漬しても分解はほとんど起きないと考えられる。そこで、ヒノキおよびスギの現生材より切り出した試験片を用い、フェントン反応により現生材の細胞壁を多孔質へと変性させることを試みた。実験の結果、未処理の試験片を浸漬した酵素溶液ではセルロースの分解による糖濃度の上昇が確認されなかったのに対し、フェントン処理を施した試験片では糖濃度の上昇が確認された。次に、酵素処理方法の検討を行うため、Trichoderma viride, Acremonium cellulolyticus, Aspergillus nigerの3種の菌由来のセルロース分解酵素を用いて実験を行ったところ、Acremonium cellulolyticus由来の酵素が他の2つより高い分解能を示し、また、どのセルロース分解酵素においても48時間程度の反応時間が適していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は27年度後期より28年度の1年半を研究期間とするため、研究計画1.針葉樹を人工的に劣化させる処理方法の検討、2.広葉樹を人工的に劣化させる処理方法の検討、3.調製した疑似出土木材と実際の出土木材の比較、の内1.針葉樹を人工的に劣化させる処理方法の検討を27年度に行った。本年度の研究の結果、セルラーゼ分解酵素による現生材の劣化を可能とするための前処理方法、及び分解酵素による処理方法の検討を終えた。これにより、次年度には研究計画2.の広葉樹の劣化方法の検討に入ることができる状態となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度の研究では、針葉樹の劣化処理方法について検討を行った。28年度の研究においては、昨年度で得られた結果をもとに広葉樹の劣化処理方法の検討を行う。次いで、人工的に劣化させた擬似出土木材の評価を行う。 広葉樹の心材より、大きさ20×20×10mm3(放射方向×接線方向×軸方向)の直方体を切り出し、試験片とする。試験片にフェントン処理、及び酵素処理を行い擬似出土木材とする。各処理は、水中重量・空中重量より算出する含水率、及びフェノール硫酸法を用いて測定する分解物濃度によって、その処理で生じた劣化度合いの評価を行う。複数の処理条件を実施し、それらの劣化度合いの評価から効率的な処理方法を検討する。 疑似出土木材の有用性を評価するため、出土木材との比較を行う。元興寺文化財研究所が保有する出土木材より試験片Aを切り出し、含水率を測定する。次に、試験片Aと同じ樹種の現生材から同様な木取りの試験片Bを切り出し、試験片Aと同程度の劣化状態になるまで劣化処理を行う。得られた試験片A及びBについて、化学組成、顕微鏡観察による細胞壁の劣化状態、及び保存処理を実施した際の薬剤の含浸量と収縮率の比較を行い、疑似出土木材が出土木材をどの程度再現できているかを評価する。
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Research Products
(1 results)