2016 Fiscal Year Annual Research Report
感情の認識と制御における文化的自己観と身体の役割に関する基礎的研究
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15J00013
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金井 雅仁 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 感情制御 / 認知的再評価 / 文化的自己観 / 相互協調性 / プライミング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は以下の3つの研究を進めた。第一に、平成27年度に実施した感情制御に関する実験(研究2)を継続した。第二に、平成28年度の交付申請書に記載した、文化的自己観の操作が感情認識の明瞭性と内受容感覚に及ぼす影響を検討する実験(研究3)を実施した。第三に、同書に記載した、文化的自己観の操作が感情制御方略の有効性に及ぼす影響を検討する実験(研究4)の実施準備を終了させた。 研究2では、文化的自己観の個人差が認知的再評価、腹式呼吸法という2つの感情制御方略の効果と関連するかを検討した。平成27年度に80名のデータを得ていたが、実験開始時に予定していたサンプルサイズに到達していなかったため、平成28年度の前半を使い23名のデータを追加した。分析の結果、認知的再評価の効果が相互協調性が高い者において小さい可能性が示された。このように認知的再評価の感情制御効果が文化的自己観の個人差と関連することを示した研究は国内外ともに類を見ない検討であると思われる。 研究3では、文化的自己観の操作が感情認識の明瞭性と内受容感覚に及ぼす影響を検討する実験を行った。当該年度の実験実施では37名のデータを集めたため、今後60名程度までサンプルサイズを大きくし、分析を実施する予定である。この検討を通して,金井・湯川(2017)で示された感情認識の明瞭性および内受容感覚と文化的自己観との関連における因果関係を推測する上で有益な知見が得られると期待される。 さらに、研究4の実験内容を具体的に決定し、所属機関での研究倫理申請を済ませ、実施準備を終了した。研究4では、文化的自己観の操作が研究2で着目した感情制御方略の効果に影響するかを検討する。この検討により、感情制御方略の効果と文化的自己観との関連における因果関係を推測する上で有益な知見が得られると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗に若干の遅れが見られる理由は以下の3点である。 第一の理由は、平成27年度に実施していた実験(研究2)を継続したことである。研究2では実験開始の段階でサンプルサイズを設定していたが、平成27年度が終了した段階での実施人数では事前に設定したサンプルサイズに30名程度不足していた。研究2はその内容から新奇性が高い検討であると考えられるため、誤った結論づけをしないためにも検定力の高さやサンプルが偏っている可能性を十分に考慮し、サンプルサイズを増やした上で分析を実施することが望ましいと判断した。その結果、研究2の実施に平成28年度前半の数ヶ月を要したため、その影響で次の実験の開始が遅れた。 第二の理由は、研究4の実験内容を申請書提出時に予定していたものから微修正すべきと判断したため、その内容決定に時間を要したことである。具体的には、腹式呼吸法の感情制御効果を検討した研究2で、腹式呼吸法の顕著な効果が認められなかっため、研究4でこの点を改めて検討すべきであると判断した。そのためには、研究2で得られたデータを精査し、腹式呼吸法の効果を正しく検出できるような実験内容を考案する必要があった。そのため、実験内容決定に時間を要し、実験の実施が遅れた。 第三の理由は、就職活動の準備に時間を割く機会が増えたことである。研究代表者は大学院修了後に就職をするため、就職活動に必要な準備を特別研究員の研究専念義務に違反しない範囲で開始した。そのため、研究の進捗が当初の予定より遅れた。 以上の3点のため、当初予定していた計画に比べると若干の進捗の遅れが発生した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針は以下の3点である。 第一に、現在37名のデータを集めている実験(研究3)を5月末までに終了させ、予定している分析を実施する。分析は(1)相互独立性を高め相互協調性を低めるプライミングを行うと感情認識が明瞭かつ内受容感覚が敏感になるか、(2)相互独立性を低め相互協調性を高めるプライミングを行うと感情認識が不明瞭かつ内受容感覚が鈍感になるか、という2つの観点から行う。 第二に、現在実施準備が終了している実験(研究4)を7月末までに終了させ、予定している分析を実施する。分析は(1)相互独立性を低め相互協調性を高めるプライミングを行うと認知的再評価の感情制御効果が低下するか、(2)腹式呼吸法の感情制御効果は見られるか、(3)文化的自己観の操作は腹式呼吸法の感情制御効果にも影響を及ぼすか、という3つの観点から行う。 最後に、申請書に記載した研究計画から内容を変更し、日常生活において腹式呼吸法のような身体的アプローチによる感情制御方略を行う傾向と心理的well-beingとの関連の強さが文化的自己観の個人差によって調整されるかを検討するweb調査(研究5と呼称)を実施する。内容を変更する理由は、現在までの実験で当初の予定のように腹式呼吸法の感情制御効果が顕著に認められなかったため、予定通りに腹式呼吸法を利用した介入実験を行うよりも、身体的アプローチによる感情制御方略の効果の有無や、文化的自己観との関連について、より精緻に検討を行った方が心理学研究として意義深いと考えられるためである。
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Research Products
(3 results)