2015 Fiscal Year Annual Research Report
W・ベンヤミンの言語思想と批評実践――そのアソシエーション構想の可能性
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15J00129
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小林 哲也 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | W・ベンヤミンの言語思想 / 第一次大戦と「黙示録的」言説 / カール・クラウスにおける「黙示録的」言説批判 / F・エーブナーとM・ブーバー / アーシャ・ラツィスとベンヤミン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、ベルリンのベンヤミン・アルヒーフ、オーストリアのインスブルック大学に付設されているブレンナー・アルヒーフを利用してヴァルター・ベンヤミンの言語思想の意義を、それが成立した第一次大戦前後の思想状況に照らして検討することに努めた。 ベルリンにおける調査によって、当時の「黙示録的」言説の諸相を明らかにするとともに、こうした言説が青年の動員と戦意高揚を行っていたことに対するベンヤミンの批判的姿勢が彼の言語論の成立を促したことを明らかにできた。この成果は、ベンヤミンの言語思想と批評実践の関係を明らかにするための基盤となるとともに、さらには彼の「メシアニズム」の特質を明らかにする上でも重要な指針を与えるものである。「黙示録的」言説へのベンヤミンの批判的姿勢に関しては、次年度に論文として発表する予定である。 ベンヤミンがその批評活動において連帯をはかっていたヴィーンの諷刺作家カール・クラウスに関してはその言説の「黙示録的」特質についてこれまで指摘されてきた。研究の中で、クラウスに関してもその第一次大戦前後の文章を詳細に検討すると、「黙示録的」モティーフは同時代言説を批判的に引用する形で皮肉に用いられていることがわかった。これらの成果に関しては、秋に「ゲーテ自然科学の集い」にて口頭で発表を行った。 また、「黙示録的」言説への批判に関して、ベンヤミン・クラウスの同時代の思想家フェルディナント・エーブナーにも見られることに着目してブレンナー・アルヒーフにてエーブナーの遺稿資料研究を進めている。その「黙示録的」言説のためにベンヤミンに批判されたマルティン・ブーバーに対して、エーブナーも批判的姿勢をとっていたことを手がかりにして、今後の研究を進めていくための準備を整えることができた。さらに、ベンヤミンをクラウスやブレヒトへと橋渡ししたアーシャ・ラツィスの研究への手がかりを得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、夏にオーストリアへの渡航予定があったが、受け入れ研究員の都合もあり半年遅らせて、代わりにベルリンにて調査を行った。それに合わせて研究計画の修正も行った。当初計画ではベンヤミンの言語論の解明に範囲を限っていたが、研究の進展によって、ベンヤミンの言語思想の特質をヨーロッパ文化の考察にとってきわめて重要な第一次大戦前後の「黙示録的」思想状況の中で明らかにすることができた。結果として、ベンヤミンの言語論成立の意義を詳細に検討できたことは大きな成果である。予定の変更もあり、論文としての発表はできなかったが、次年度に精力的な発表を期待できる。 オーストリア・インスブルック大学での調査を遅らせたため、F・エーブナーの対話思想研究の進捗は当初より遅れてしまったが、それに代えて、次年度以降本格化させる予定だった・K・クラウスの研究を大きく進めることができた。「黙示録的」言説へのクラウスの批判的姿勢の研究に関しては当初計画になかったものだが、クラウス研究全般の中でも今後の進展が待たれるものであった。本研究によって先鞭をつけられたことの意義は大きい。 インスブルック大学での長期滞在研究に関しては、平成28年度後半からを予定していたが、計画を変更し平成27年度末の渡航後早々に長期滞在の準備を進め、次年度以降の本格的研究の基盤を整えることが出来た。すでに受け入れ研究員のシャイヒル氏やブレンナー・アルヒーフのリカボーナ氏の協力のもと、文献渉猟をすすめている。 また当初予定になかったアーシャ・ラツィス関連文献の日本での紹介の準備を始めている。これは、ベンヤミン研究はもとより、当時の政治的演劇の諸相と、その日本での受容などを考察するうえでも重要な面をもっており、その実現が待たれる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、インスブルックに滞在し大学図書館およびブレンナー・アルヒーフの資料を利用して研究をすすめる。 春から夏にかけては批評家としてのカール・クラウスとベンヤミンの特質や戦略についての比較研究を進める。その際、まず両者のゲーテ受容の親近性と差異をひとつの手がかりとして、文学史の中での両者の批評活動の位置を確認していく。研究成果については、インスブルック大学にて行われる研究会で報告予定をしている。その後内容に修正を加えて、「ゲーテ自然科学の集い」が発行する『モルフォロギア』誌に論文として発表する。 ついで、夏から秋にかけて、「黙示録的」言説へのゲーテの反対姿勢も踏まえて、クラウス・ベンヤミンの反黙示録的姿勢がヨーロッパ近代思想の中でもつ意義を明らかにしていく。近年ヨーロッパを中心に黙示録的思想潮流の再検討の気運が高まっていることも踏まえて、ベンヤミンとクラウスの思考のアクチュアリテートについてドイツ語で論文を執筆する。この成果は日本独文学会発行のドイツ語による雑誌に発表予定である。 その後、F・エーブナーの言語思想について1921年の著作『言葉と精神的現実』を中心に研究し、ベンヤミン、ブーバーとの比較検討を行っていく。「対話」思想としての比較検討と、黙示録的言説への距離を基準とした比較検討を行う予定である。この成果については、平成29年度以降に論文としてまとめる予定である。 平成29年度は必要資料を持ち帰って日本にて研究を進め、エーブナーについての論文をまとめた後、研究の総まとめにとりかかる。
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Research Products
(3 results)